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ほどいて/(白)金木

息を吐けば、白いそれはやんわりと消えた。耳元には、もう何度も聞いた留守番電話のアナウンス。ツキりとした胸の痛みを誤魔化すように、タバコに火を付けてはモヤと一緒に煙を吐き出した。


『(いつになれば、貴方の声が聞けるの…?)』


突然、彼から連絡が途絶、突然、彼の姿が見えなくなり会えない日々が続いている。また、吸うようになってしまったのも止める人が消息不明になってからだ。

「君の体ために、出来れば控えてほしいな」と困ったように笑われて、その数秒後タバコの箱を握り潰しゴミ箱に放り投げたのはいい思い出だ。

短くなってきたタバコを缶コーヒーの中へ捨てれば、ジュッと音を立てて煙がぷつりと切れた。


『(もう一度。もう一度だけかけてみよう)』


履歴の一番上にある名前を押し、耳に当てた。見上げた空には星が満天に散らばっていて、二人で見た日を嫌でも私に思い出させる。ワンコール…その音を追うように後ろから、記憶の中で聞き慣れた着信音が静かな夜に木霊した。

震える指で通話を終了させれば、鳴り止んだ着信音。視界がぐにゃりと涙で歪む。ゆっくりと振り向こうとすれば、いつの間に近付いていたのか両目を覆われた。


『っ、研……け、ん…!!』

「振り、向かないで」


耳元から聞こえた懐かしい研の声は震えていた。振り向くな、なんて言ったくせに私を抱きしめる腕の力は増すばかり。何か、あったんだ。私に言えない何かが、彼に起こった。


『研、お願い。顔を見せて……お願い、けん、』

「遊乃……」


ゆっくりと目を覆っている彼の手を退かして、何ヶ月ぶりの研を目にする。首元に腕を回し、今までの隙間を埋めるように力強く抱き締めれば戸惑いながらも、抱き締め返してくれた。

きっと聞いちゃいけない、そんな気がする。何も聞くなって脳が叫んでる。


『やっと、研に会えた……』


じっと研を見つめれば、酷く切ない顔をしていて何故だか胸が痛んだ。まるで壊れ物を扱うかのように研はそっと、優しく私の頬に手を当てた。触れるだけのキスが、徐々に徐々にこの夜のように深さを増していった。


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