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ギャップ/世良

※百合


ただ、なんとなくだった。なんとなく今日は遠回りした、とかそんなニュアンスと一緒で授業に出る気分になれず、高校二年生の初夏、私は初めて授業をバックれた。

あぁ、今頃数学の教科書をだとか、蘭に一言言ってくれば良かっただとかあーだこーだ湧いてくる雑念を振り払う。
昼休み最中、予鈴が鳴ったのは10分前で、そろそろ本鈴が広い校舎に響き渡る頃だろう。先生に見つかる前に私の足が向かったのは階段、そして屋上。

シン、とした静寂の中、授業をサボるなんて初めての体験に、小さな子供みたいにドキドキしていた。少しの背徳感と好奇心を胸にゆっくりと屋上の扉を開いた。

薄暗い所で慣れていた瞳は、急な明るさにジンジンと痛みを帯びる。数度瞬きを繰り返し順応してきた眼に映った光景は、私がやってしまったことよりも、さらに驚くことだった。


「えっ……世良さ、!?」

「…ッ!!?」


静かに扉を開けたせいか、それともこんな時間に誰かが来るなどと油断していたのか、人の気配に敏感な彼女が私に気づかないなんて、いや、それよりもだ。


「タバコ……!」

「チッ」

「舌打ちしました!?」


見られたかー…!と呟いた世良さんは諦めたように後頭部をかいた。丁寧にポケットから取り出した携帯灰皿へ、吸殻を捨てる動作すらも見惚れてしまう。後ろでガチャンと、扉の閉まる音、そして目の前には世良さんのにっこりと笑った綺麗な顔。

「いや、あの、近……。別に言いふらしたりしないよ」

「そう、それは良かったよ。で、君は何してんの?授業、とっくに始まってるよ」

「そっくりそのままお返しします」

私の言葉に、眉間にシワが寄っても綺麗だな、なんて場違いなことを考える私はどうやらとても呑気な性格らしい。あまりの近さに顔に熱が集まるのを感じる、バレないよう視線をそらせばニヤリと笑う世良さんの表情が横目に見えた。

細くて長い指が私の顎を掬い、簡単に持ち上げる。私よりも背の高い世良さんは何をやってもサマになる、だってこんなのまるでドラマの中みたいだ。

「君って分かりやすいよね」

「は……?」

何が、その言葉の続きは言わなかった。否、言わせて貰えなかったが正しい。何故?何故なんて私が聞きたいくらいだ。どうして彼女の唇が私のカサついた唇にくっついているのか?リップクリーム塗っとくべきだった。

「ッ何、してんのよ」

「嫌なら引っぱたくなりなんなりすれば良かっただろう。……僕のこと、好きだよね?」

「〜〜っ!?」

きっと今、私の顔は真っ赤なのだろう。現に顔が熱くてどうにかなりそうだ。バレていたうえにキスをされるなんて、ん?なんて口端をあげて笑う世良さんに不覚にもときめいてしまうなんて。

「#nam2# 遊乃…さん、だよね」

「なんで名前…」

「君が可愛くて覚えてた」

「また、うまいことを」

「信じてないな」

そりゃ、そうでしょう。今の今まで接点なんて同じクラスということしかなかったんだから。

「蘭くんに聞いてみるといいよ、僕がどれだけ君の情報を集めてたか、どれだけ本気か」


ふ、そう微笑んだ彼女は私の頬を優しく…優しく撫でた。あまりにも愛おしそうな瞳で私を見るのだから、いたたまれなくなる。


「蘭を出すなんてずるいわね。あの子は嘘をつかないって分かってるのね」

「…まぁね」

「………分かったわよ!私の降参!!」


全てを見透かすような、そんな瞳で、こんな至近距離で見つめられたら何もごまかせない。


「私、貴女のこと好きなの。どうにかしてよ」

「はは、僕も君のこと目で追ってしまうし、僕以外の誰か喋ってるのをみると嫉妬してしまうんだ。僕と…付き合ってくれる?」

「……えぇ、喜んで」

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