カイコクより数分程遅れて、私は恐る恐る巨大パンダの近くにやってきた。そして目に入った光景は、パンダにクシャミをぶちまけられた男の子。


『あははッ、もう本当ナニコレ』

「おー、遅かったじゃねェか」

『置いてったのカイくんじゃん…』


去っていくパンダを呆然と見つめ、前髪をかきあげた。話している男二人を他所に、暗い表情で俯く女の子の側へ寄る。


「そっちはそろそろ立てそうかい」

『…大丈夫ですか?』


手を差し伸べた瞬間に彼女は弾かれたように、顔を上げた。私を見つめる瞳は大きく見開かれている。……え、なに…


「ッ…もしかして、あなた……!!」


言葉を途中で遮るように、彼女の腕を掴み立ち上がらせる。小さく悲鳴を上げるがお構い無しに、カイコクの方へと背中を押した。

私の前には、ドロりとした液体と大きなカタツムリ。…カタツムリか、うん。


『私を食べても美味しくないよー。食べないだろうけどさ…ほら、帰りな』


そう言うやいなや、カタツムリはジッと私を見つめて満足したのか、反対方向へと歩いて?行った。


「お見事!!素晴らしい!早速第一ステージクリアとは」


突如響いた第三者の声。ビクリと揺れる肩。ああ、今日だけで私は何回寿命縮められればいいんだろうか。声の方へ視線を向ければ、アルパカの被り物をした背の高い男が、拍手をしながら近づいてきていた。


「はじめまして。ワタクシ「ナカノヒトゲノム」監視役、13番街担当、パカと申します」

『え、バカ?』

「バカじゃないです、パ、カ、と申します」


失礼、普通に聞き間違えた。咳払いを一つ、何やら説明し始めたパカは、左手首を見ろと指さす。

シャツを捲った自分の左手首には、カウンターのようなものが付けられていた。


「代表型カウンターです。お休みの間にナノチップを埋め込ませていただきました」

『……』

「街のメインサーバーと連動しておりまして、再生数をリアルタイムでお知らせいたします」

『再生数…ね。お迎えにあがりますって、こういうこと』

「ええ。…再生数、皆様におなじみの言葉でしょう?戦国実況の鬼ヶ崎様に、ホラー実況の更屋敷様」


見ず知らずのアルパカに名前を言われた二人は、息あいあいと物騒な話を進める。それを遮るように、口を開く。


『目的は』

「ふふ、では単刀直入に申します。貴方々がここでなすべきことは、ただ一つ。そのカウンターを一億まで回すこと。すなわち、再生数一億ビューを達成すること。

なお、プレイ期間は無限にございます。どうか死ぬ気で実況してくださいませ」


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