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 夏休みが終わっても、まだまだ暑い日が続いている。九月なんてそんなものだ。残暑と言って、夏の暑さは秋まで残るらしい。コンビニだってフローズン何とかをまだまだ売っているし、こっちとしても冷たいものがなければやってられない。

「アイスー……、アイスー……」

 アイスを求めてゾンビのようにコンビニを目指す一実に、問いかける。

「この夏何本アイス食べたと思う?」
「あー……、分かんないー……」

 一実からは最早考えようという意思が感じ取れなかった。目が虚ろだ。早く、早く一実にアイスを与えなければ!

 半ば一実を引き摺るようにしていつものコンビニまで辿り着き、いつもの棒アイスを買う。当たりクジ付きの一番安いやつだ。一体今年に入ってから何本このアイスを食べただろうか。二百本は下らないと思う。予想だけど。でも、そのくらいは食べている自信があった。二人合わせて四百本。四百本近く消費して、クジの当たりはゼロ本。当たり自体はある。それは間違いないのだが、どういう因果か#name3#たち二人の手に当たり棒が握られることはなかった。世界の陰謀に違いない、何て言うと現実味が薄れるから、きっとこのコンビニの陰謀に違いない。だってそうじゃなきゃ、四百本も食べて一本も当たりが出ないおかしさに理由が付けられない。

「……あ」
「いっ」
「うぅ」
「えー」
「お!」

 #name3#の小さな呟きに、一実の何も考えていない相槌が重なった。それに乗ってしまう#name3#も#name3#だけど、今はちょっと、それは置いといて。

「見てみて、一実」
「ほー?」
「これ『当たり』って書いてない?」

 半分以上かじったアイスを見せると、一実の目と口が大きく広がった。ついでに鼻の穴も。ぽっかり開いた口から溶け出したアイスが液体となってよだれのように流れ落ちる。

「ちょ、汚ねぇなー。ちょっと青っぽいよだれが垂れてるから」

 一実の口元にポケットティッシュを乱暴に押し当ててぐしぐしと拭いてあげる。

「当たり棒交換してくる」

 コンビニの店員に、どうだ見たか、と言わんばかりのドヤ顔で当たり棒を差し出し、同じ味のアイスをもう一個受け取る。店員は#name3#の渾身のドヤ顔に目をくれることもなく、淡々と業務を遂行してくれた。張り合いがないと、ちょっと悲しい。

 戻ると、一実が神妙な顔付きで腕を組みながらベンチに座っていた。

「#name2#。覚えてる?」
「何を?」
「当たり棒が出たその暁には……!」
「暁には?」
「当たった方が白石麻衣に告白できるっていう約束!」

 ああ、確かに。あれはアイスを大体百本ほど食べた頃だっただろうか。どうせ当たりやしないとやさぐれていた#name3#たちは、じゃあもし当たったらどうしよう、よしこうしよう、とんでもないことをしでかしてやろう、という具合に話を進めた記憶があった。

 夏の暑さにとろけ切った頭で、二人して、ああでもないこうでもないとアイデアを出し合った末に、我が乃木坂学院の頂点グループに属するクイーン・ビーこと白石麻衣にダメ元で告白してみよう、ということになったのだった。

「今更だけどさ、ホントにやる?」

 一実が確かめるように言った。

「……やる。やるさ。やってみせる。やってやれないことはない!」

 言葉の語気だけは勢いのあるものだったけれど、実際#name3#の中の決意はそこまであるわけじゃなかった。まあ、クイーン・ビーに当たって砕ければ箔が付くし。その程度。砕ける前提だけど、重要なのはそこじゃない。あの白石麻衣に体当たりする勇気を賞賛して欲しいのだ。ほら、みんな尻込むじゃん。#name3#なんか無理だよ、ってなるじゃん。それでも伝えずにはいられない、みたいな。そういう心意気のような部分を誰かが見てくれて『素敵! #name1#さん、抱いて!』ってなるかもしれないから。そういう心の隙間産業を狙って一発逆転っていう筋書きだ。

「よし分かった! 応援するよ! 頑張れ! フレーっ! フレーっ!」

 アイスで気力を取り戻した一実のエールを受ける。泣きたくなるほど頼りない上に、道行く人からの好奇の視線が恥ずかしい。強めに一実を押し戻してベンチに座らせる。

 応援の余韻で荒い息を吐きながら、一実が口元を歪めて笑った。

「一ヵ月後くらいには『あの白石麻衣に告白した勇気ある#name1##name2#!』っていう話題で持ち切りになるね。そして私も『あの白石麻衣に告白した勇気ある#name1##name2#! の背中を押した優しい親友高山一実!』として一世を風靡しちゃうねこれ」
「間違いないな」
「ふははっ」
「あっははははは」

 その日、コンビニ前のベンチで高笑いをする変な女子高生二人組がいると噂になったとか、ならなかったとか。

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