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 白石さんに告白と言っても、#name3#と彼女では生きてる次元が違い過ぎてどうしたらいいのか分からない。それに、いざ告白となってはじめて気付いたんだけど、#name3#って白石さんの顔が可愛いということ以外に彼女に対する情報を何一つ持っていなかった。だって会話したことなんて、ないし。そもそも#name3#は白石さんのことが本当に好きなのか? 自分自身の気持ちながら怪しいところだ。顔はとても可愛いと思う。そんな誰でも見れば分かる、知ってることしか知らない。

 教壇の目の前の席でぼへっとしながら考える。そうだ、話したこともないのに、告白はまずい。変な人だと思われる。まずは会話から。

 くるっと身体を回して、窓際の席で同じグループの橋本さんや生田さんと楽しそうに話している白石さんに視線をロック・オンする。あそこの集団だけキラキラと輝いていて目に毒だ。クイーン・ビーの毒は猛毒だと前に一実が言っていた。気を付けなければ。

 休み時間中の白石さんを見ていても、新しい情報はあまりないようだ。たまに笑って、たまに咽て、たまに真顔になって、たまに顔を顰める。強いて言えば多彩な表情を見せる女の子っていうことくらい。現時点での白石さん情報を脳内アップデートしてみる。その一、白石さんは可愛い。その二、白石さんは表情豊か。以上。……薄い。どこを切り取っても薄味過ぎて何の味もしないほど薄っぺらい情報しかない。

「早速ターゲットを確認してるね。抜かりないね、#name2#」

 ニヤニヤと近付いて来た一実から何か有益な情報を得ようと相談する。

「えー? 情報? えーっと、まず可愛いでしょ、それから超可愛い、スーパー可愛い、ハイパーミラクルぶっとんでギャラクシー可愛い――」
「もういい! 一実に聞いた#name3#がバカだったよ」

 何だよハイパーミラクルぶっとんでギャラクシー可愛いって。宇宙規模かよ。つまり一実も#name3#も、白石さんについて何も知らないわけだ。そんな人に告白って、今更ながら無理がある気がする。でももう後には引けない。宣言してしまったのだ。#name3#はやるよ、やる女だよ。

 小手調べだ。移動教室の前に、まずは何気ない感じで話しかけてみることにした。

「白石さん」

 大丈夫。クラスメートがクラスメートに話しかけて何が悪い。

 廊下で#name3#の前を歩いていた白石さんが振り向いた。髪がシャンプーのCMみたいにふわっと広がる。

「これ落としたよ。コンタクトレンズ」
「……え?」

 相手はちょっと戸惑っている。どうだこの素晴らしい作戦は。白石さんに話しかけることができる上に、落し物を拾う親切なクラスメートとして印象にも残り、かつ白石さんの視力の程度も分かるという優れものだ。

「これ白石さんのじゃないの? 今落としたように見えたんだけど」

 白石さんは目をしぱしぱと瞬かせながら、#name3#の顔と、手の平に乗った透明なコンタクトを交互に見ている。

「多分、私じゃないと思う。私のは、両方ともちゃんと目に入ってるから」

 よしよし、これで白石さんは目が悪くてコンタクトを使っているということが分かった。一歩前進だ。取っかかりとしては悪くないと思う。

「あれー? そうなんだ。じゃあ、これ誰のコンタクトかな。落とした人困ってるだろうから、落し物ボックスに入れといてあげよう」

 ここで親切な#name1##name2#を印象付ける! 完璧な流れ過ぎて恐ろしさすら感じてしまう。コンタクトを手の平に載せたまま悠然と立ち去ろうとする#name3#を、白石さんの小さな呟きが止めた。

「そのコンタクト、もう乾きかけてるし、事務の人も落し物でコンタクト渡されても困ると思うから、捨てた方がいいと思う……」
「……」

 それは白石さんの感想であって、明確に#name3#に向けて言った言葉ではなかった。しかし、白石さんの言っていることはもっともだった。よく考えれば分かる。そもそも持ち主だってまさか落し物ボックスに届いているとは思わないし、探しもしないだろう。こんな初歩的なミスをするなんて、不覚。親切な#name3#を印象付ける作戦は失敗したと言っていいだろう。

 遠のいて行く白石さんたちの背中を見送って、#name3#は教室に取って返し、近くのゴミ箱にコンタクトをポイっと投げ捨てた。

「ねーねー、#name2#」
「ああん?」

 困り顔で寄って来る一実を適当にいなしながら、#name3#も移動教室の準備を始めた。最後の作戦は失敗に終わったとはいえ、まずまずの出来だ。話しかけられたし、白石さん情報も一つゲットできた。この方針で問題はないはずだ。#name3#の頭の中では、すでに次なる作戦会議が展開されているのだった。

「私のコンタクト知らない? 学校でつけようと思って持って来てたんだけど、片方見つからなくてさー」
「知らない。コンタクトなんて見たこともない。ハイパーミラクルぶっとんでギャラクシー知らない」
「ええ……? 知らないことに全力過ぎて怖いよ……」

 もちろん一実のコンタクトは、今さっき#name3#がゴミ箱に捨てました。

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