Intervention(危機介入)

1999年、世紀末を迎えたその年に、
僕は慰者になった

『ホグワーツの戦い』から1年での慰者免許取得
父の圧力あってのことだと誰もがそう考えた
それをいちいちくつがえすのも億劫で、
わずらわしい

集を憎んだ僕は弧になるしかなかった

カフェテラスでの昼食
もはや定席になりつつあるガラスに面したその席に
いつも通り人影は無い

僕が1つ成長したところがあるとすれば
独りを苦に感じなくなったところかもしれない
呆れるほど安い、しかし思ったより不味くはないフィッシュ&チップスの定食を食べながらそう思った

昔は、誰でもいいからそばにいて欲しかった
クラップ、ゴイル、あいつらと一緒にいたのはそれだけだと今ならわかる
数こそが強さだと本気で信じ、挙句の果てに何もかも失った
今、生きている人の中に僕より多くを失った人は大勢いるとそう弾劾されることもある
しかし彼等が受け入れるはめになったのは『他者の死』や『貧しさ』だ
いずれ時や努力によって慰められたり、取り戻したりできる
少なくとも、その可能性がある

『信頼』は、違う
誰をも信じず、誰からも信じられず
僕がドラコ・マルフォイである限り
僕は独りだ

今日も明日も1ヶ月後も1年後も
数十年後も…生の終わりまで

紙コップの紅茶がじんわり指先を温める
家に送られてきた紅茶の包みを思い出した
母からだ

『ホグワーツの戦い』が終わって僕は家を出た
勉学のためというのが口実だった
あながち嘘でもない
もはや父に頼りたくはなかった

いずれ戻ると目を逸らしつつ告げた日のことを思い出す
叱責が飛んで来るかといつも通りじっとしていた
が、不気味なほど、静まり返ったままだった
おそるおそる顔を上げると
厳格な目の奥に滲む色濃い疲労が答えを示していた

あっけなく
本当にあっけなく家族はバラバラになった
今でも母は父と暮らしていて、顔を合わせることもあるのだろう
家族とよべるのか疑わしい頻度で

とにかく僕は自由になった
生まれてからの17年間で初めての本当の自由だった

ぽんと誰かが肩を叩いた
驚いて振り返れば、下がり眉の平凡な顔立ちがこちらを見つめている。女だ

「あの、すみません、驚かせてしまって…何度かお聞きしたんですが、ずっと考え込んでいらっしゃったので…お隣、よろしいですか?」

「あ、いや、こちらこそ、すみません、どうぞ」

華奢な女だった
肌の色が透けるように白い
どこにでも居る女
が、トレーにのった品数は驚くほど多かった

「あは、多いですよね。気づいてはいるんですけど
止まらなくて…ここのフィッシュ&チップス美味しくないですか?他のをたくさん食べたことがあるわけじゃないんですけど」

女は綺麗に咀嚼した
女の食べる様が美しいと思ったことがあるのは、母ぐらいだった
食べ方には品格がでると父にしごかれたのをぼんやりと思い出す

しゃくしゃくと食べて、女は、僕が見ていることに気づいたのか、恥ずかしげに笑った

「すみません、お引き止めしてしまいましたか?」

「いえ、よろしければ、もう少しここにいても?」

女は目を丸くした
丸い目元に浮かんだ愛嬌が目を引いた
コクリとうなずいたので、そのままそこにいることにして、紅茶を1口飲む

ガラスごしの空が晴れていることに気づいた


intervention
(危機介入)


ALICE+