Evidence(形跡)

丸い目が大きく見開かれ、
胸のあたりに添えられていた掌が爪の食い込むほどきつく握られるのを無関心に眺めた
綺麗な水が彼女の瞳からすらりと流れ落ちる様を想像して僕は視界を遮断する



「知っています」

思いがけない言葉にはっとまぶたを開けば
今までの姿からは想像もつかないほど
威厳に満ちた姿に少したじろいだ
大きな丸い目には火花が散り
貧弱な子供のような体が
貴婦人の誇りをまとった

「貴方がドラコ・マルフォイであることも
第一外科でどんな存在であるかも
貴方が過去にどれほど悔い苛まれているのかも
今はもうひとつ知っていることが増えました」

「…何だ。」

「貴方がわたくしを思って
自分の気持ちに嘘をついてくださるほど優しい方だということです」

そう言って微笑む彼女の目は
すべてを捧げる人の眼だった
あの老人を思い出させる愛の眼
捧げるがゆえに、相手を見透す能力を持ったあの瞳
どうして今まで気付かなかったのか
不思議なくらいだ


揺るぎないそれに僕は自分の正直な柔い気持ちをさらけ出す覚悟ができた

「アストリア、僕は、」


「―スコーピウス!ご飯よー!」



ギャッと飛び上がってから答える

「はーい!今行くよ!」

父親の日記を慌てて本棚に戻しながら考える
父と母はあまりにも違う種類の人間だった
あまり愛情を示す素振りを見せない父の姿に
なんで結婚したんだろうという疑念が
誰でも一度は抱える疑念が
晴らされたことに深く満足する

書斎のドアを出来る限りそっと閉じた少年は
別人のように軽い足取りで部屋を出た


なんだかんだ、お似合いなのかもね、この二人
母がまた間違って用意したフォークで
黙々とスープを飲もうとする父の姿に
クスリと笑って、少年はそう思った


Evidence
(形跡)




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