彼女でござる 花のJKでござる [3/7] 時刻は夜の10時過ぎ。 「はあー、今日も疲れたぁー!」 自分の部屋に着いて、私はようやく一息ついた。 まだ、このあと、S組をキープするために自習をしなきゃいけないけど。 基本的に晴臣の傍に仕えるのは学校の中とプライベートに外出する時だけだけど、それ以外の時間は、やらなければいけないこと(修行)が山ほどある。 本物の忍者みたいに天井に張り付いたりドロンと煙とともに消えたりはしないけど、晴臣が襲われたら身を挺(てい)して護るのが私の役目だからだ。 だから子供の頃から私は、ありとあらゆる武道を身につけて来た。 柔道や剣道はもとより、合気道や空手、弓道に至るまで。 その他にも華道や茶道、はたまた書道まで習わされた。 勿論、武道は本来のお役目のためで、芸道は少しでもお嬢様らしく見せるためだ。 他にもピアノやお料理も習って来たから、正直、もうこれはお嬢様だと言っていいレベルだと私は思う。 事実、我が望月家はそれなりの家柄だし、いっそのこと私が晴臣の許婚でもいいんじゃないか、って。 それでもやっぱ、私たちは主人と使用人の間柄なんだよね。 長年……数百年に渡って培(つちか)われた主従関係はそう簡単に崩せるものじゃないし、それは私も重々承知している。 どんなに花嫁修行ともとれる芸道に励んでみても、所詮は晴臣の許婚の隠れみのに過ぎないんだし。 「晴臣、か」 私がそう晴臣を呼び付けで呼び始めたのは、許婚のふりをし始めた中学生の頃からだ。 それまでは普通に、晴臣様、なんて呼称で呼んでいた。 敬語を使うのが当たり前で、だけど、私が晴臣の許婚を演じるにあたり、晴臣が私の敬語や様呼び禁止令を出したのだ。 まあ、当然よね。 普段から許婚同士の会話を徹底してないと、うっかり敬語や様が飛び出したら全てがおじゃんだし。 敬語や様付けが日常会話のお嬢様もいるけど、私の家柄だとそこまでやったらやり過ぎだ。 それに私の敬語は従者が使うもので、お嬢様が使うものとは全然違うのだ。 今じゃすっかり慣れたけど、やっぱり二人切りになると敬語や様付けの癖は出てしまう。 他の大人たちの前では勿論、敬語や様付け必須だし。 その度に晴臣は少しだけ不機嫌になるから、その都度、思わず勘違いしそうになる。 もしかして、晴臣も少なからず私を想ってくれてるのかも、って。 なんてったって、これでも花の女子高生ですから。 例え胸の膨らみよりも筋肉の隆起のほうが勝っているとしてもね。 午前中で学校は終わり、午後はまるまる武道や芸道に時間を割いた。 武道は子供の頃にみっちり仕込まれた。 だから、今は鍛練するレベルでいいから芸道の習い事を中心に。 茶道や華道はお嬢様が普通に嗜むレベルに達しているから置いといて。 現在、私は書道に夢中だったりする。 勿論、華道や茶道も集中出来るけど、これらは心を落ち着かせるためのものだ。 一方、書道は心を無にして集中出来る。 S組で居続けるために勉強も疎かに出来なくて、家では自習に殆ど時間を割かれてしまう。 だからか芸道の数々は私にとって、趣味の時間のようなもので、一日のうちで心が休まる貴重な時間だったり。 「えーと、解らないとこは明日、晴臣に聞こ」 全く普通の女子高生らしくはないけれど、これが私の日常だ。 普通の女子高生みたいなことをしたいと思わなくもないけど、うちの学校に通う生徒の大半は私と同じ境遇だから。 それでもちょっぴり夢見てしまう。 普通の女の子みたいに高校生活を送ること。 まあ、普通の生活と言ってもテレビや映画でしか見たことがないから、正直、普通がどんなものなのかもよくわかってないんだけどね。 「あ。花苗からラインだ」 難しいところを晴臣に聞こうか迷っていると、従者仲間とも言える花苗からラインがきた。 [*前へ][次へ#] 4/8ページ [戻る] [TOPへ戻る] |