離れに着いて、一応念のために深呼吸してからそろぉっと静かに注意深く襖を開けて中を確認。



『…………』



埃まみれで汚いけれど普通の部屋だ。安心して息を吐く。どうやら前任の部屋だけがあの有り様のようだ。
掃除したとしてももう使いたくはないな、あの部屋だけは。綺麗にしたら封印でも施しておこう。

襖と障子を全て開け、空気を入れ替える。と言っても、まだ空気浄化も出来てないのだけど。


とりあえずやることとしては…

一、結界の張り直しと空気の浄化
二、風呂、厨、厠、手入れ部屋の清掃
三、手入れ用の資源集め
四、前任の部屋の破壊…じゃなかった、清掃と浄化

これくらいか?他の部屋は刀剣男士との鉢合わせを防ぐためにもまだ手をつけない方が良いだろう。
早急にやらなきゃいけないのは一と二。この不浄な空気をいつまでも吸っていたくはない。

ということで、庭に下りてこの本丸の中心を探す。庭は沢山の木で囲まれていて、大きめの池には橋が架かっている。ボロボロだから乗ったら即ドボンだろう。
近寄って池の中を見たらまぁ酷い。鯉だったんだろう白い骨がチラホラ…。そりゃ生きていられないだろう、こんなとこで。



『んー……?』



池の反対側にある大きな木は…桜か?
前任の残っている霊力の源はあの桜の木のように感じる。なら、同じようにあそこに霊力を流し込めば結界も修復できる筈。

渇れている池を通って桜の木の下まで行き、手を添えて目を瞑る。枯れかけてはいても、まだちゃんと生きているのが伝わってきた。



『…………』



イメージするのは、満開の桜。

枝や根にまで流れる水の如く霊力を注ぎ込む。

更にそこから大地にまで行き渡らせて本丸全体を包み込み、その内側の空気を浄化させれば、空を覆っていた靄が消えて綺麗な青空が顔を出した。

すると、枝にぽつぽつと蕾がつき始めると同時に、庭の周りの木にも葉が繁り、草花が咲いていく。

次第に桜の花も咲き始め、さわさわと風に揺られる葉の音が聞こえてくる頃、ふぅっと息を吐いて目を開けると、木はイメージしていたものより美しい姿を取り戻していた。

チョロチョロと水の音が聞こえて振り向くと、渇れていた池も元の姿に戻っていて鹿威しがカコンと鳴った。
成る程、審神者の霊力次第でこういう環境も保たれるのか。さすがに鯉が生き返ることは無いけれど。

こんな大掛かりな結界を張るのは初めてだ。ちょっと疲れた。でも結構うまくいったみたいで満足。

この桜の木が、この本丸の御神木になってくれますように。

そう祈ると、まるで応えてくれているかのように桜が舞い、掌に一房の桜の花が落ちてきた。



『…よろしくお願いします、ね』



まずは第一関門クリア…かな?


 

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