三人が各々に動き出したのを確認し、私は広間の端っこに座る刀剣男士へと歩み寄る。まずは重傷者からだ。見る限りだと短刀たちが酷い。

薬研と同じような格好の子たちが怯えた瞳をし、その前に水色の髪の男性が立ちはだかった。前に来た時も、この人が今と同じく庇おうとしていたのを思い出す。

でも、あの時は警戒心と共に殺意も感じられたけれど、今は警戒はあれど殺意は無い。寧ろ迷うように瞳が揺れ、震える唇でゆっくりと言葉を紡ぎ出した。



「…薬研から…話は聞いております……。貴女は前任とは違い、守りたいものの為に戦う…強い瞳を持つ御方だと」


『……強い瞳…かはわかりませんが、守るために戦い生きるつもりなのは本当です』



やっぱり薬研や鶴丸から色々聞いてはいるらしい。実際彼らが何を思って話したのかは知らないけれど、目の前にいるこの人…刀はその話で揺らいでいるようで、私が前にいるというのに視線を逸らして考え込んでいる。

もし私が敵だったら格好の餌食ですよ?
…言ったら余計に警戒されるだろうから言わないけれど。



「私は…今でも貴女が怖い。貴女だけでなく、すべての審神者…人間が…」


『…………』


「前任は私の目の前で弟たちを折りました。折って…「言うことを聞かなかった罰だ」と言って嘲笑うのです…っ。兄として弟たちを守れなかった自分が情けないっ!」



この人は弟想いの良い刀だ。犠牲になった弟様たちを今でも想って自分を責めている。



『…それならば尚のこと、弟様たちの手入れを私にさせてくださいませんか?弟様を守りたいと言うのであれば、私という審神者を使って弟様を治してあげてください』


「っ!?つ…かう?貴女を…?」


『はい。…弟様を守りたいと思う気持ちは、私にも妹がいるのでわかります。病弱でずっと床に臥せっておりますが、私と違って明るくて優しい…病気だなんて思えないような子です』


「っ、妹君が…」


『私は妹を守るためならば使えるものはとことん使う。それが人間だろうと権力者であろうと関係無い』



あの子の存在があるから私がいる。それはあの子にとってもそうなのだ。依存し過ぎていると思うけれど、そうでもしないと私たちは生きる気力を失ってしまうとわかっている。

チョーカーに触れて今一度確認する。これは政府の犬に成り下がったからつけているわけでは無い。あの子と一緒に未来を歩むという私の決心だ。



『妹と共に生きる…、それが私の夢なのです。勿論今も生きてはいますけれど、普通の…姉妹としての時間が欲しい。だから私は何としてでも生きる。意地汚いでしょう?』


「そんなことは…っ」


『それに、こうも考えるのです。私が誰かを使って生きるのと同じように、私の力で誰かを生かせるのなら、喜んで道具として使われようと』


「!!」


『だから今、私は喜んで貴方に使って欲しいと思います。私と妹のように生きる場所が違うわけではない…、兄弟同じ場所で共に生きる時間が貴方たちにはあります。弟様にも貴方にもまだ生きたいという希望があるのなら、私の霊力をどうか使ってください』



どうか私たちと同じにならないでほしい。今まで辛かった分、兄弟で幸せに過ごしてほしいから。

驚いたように目を丸くしたその人は、やがて目を閉じて考えると私に深々と頭を下げた。



「どうか…弟たちをよろしくお願い致します…!」


『はい。全力を尽くします』



 

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