もうそろそろ雑談に入っているかなと思い、林檎ジュースを抱えながらシロの病室に戻るとまたシロが抱きついてきた。泣きついてきたとも言う。

薬研と大和守も疲れたような表情をしていて、何事かと思って中を見て納得。もう来てたんですね、真黒さん。シロが嫌がってるわけだ。

そして真黒さんの他に見知らぬ男性が一人と、その人の近侍らしい鶴丸さん。話したいこととは彼らのことだろうか?

とりあえずシロを落ち着かせてベッドに戻し、それぞれにジュースを手渡して私もシロの横に座ると彼らもパイプ椅子を出して腰を下ろした。



『ごめん、シロ。真黒さんが来ること言っておけば良かったね』


シ『クロは悪くない!悪いのは全部こいつ!!』


「今度は"こいつ"呼ばわり…。先輩、この子に何したんスか?養成所じゃあ女の子にモテモテなくせに」


真「何も」


シ『してねぇとは言わせねぇぞコラ』


真「悪いのは全て私です申し訳ございません!!」


大和「(すご…。さっきまでのシロと大違いだ)」


薬「(どことなく大和守と同じものを感じるな…)」



あらあら、シロのこの口調も久々だ。ドスの効いた声で乱暴に吐き出された言葉に驚いているのは薬研たちだけではないだろう。男性は目を丸くしてシロと真黒さんを見比べ、鶴丸さんは面白おかしく笑っている。

真黒さんが嫌いなのはわかるけど、ここは少しの間我慢してもらわないと話が進まない。
そういう意味も込めてシロの手を握ると、シロもきゅっと握り返して口を閉ざした。



『…それで、話とは?』


真「まぁ予想はついてると思うけど、こっちの彼の紹介がまず一つ。彼は私の後輩で」


「審神者登録名は″瑪瑙(めのう)″。んで、近侍の鶴丸」


鶴「よろしくな!」


瑪「君たちのことは聞いてるから自己紹介はいいよ。よろしく、クロちゃんにシロちゃん」


『よろしくお願いします』


シ『……よろしく』


真「はい!じゃあ挨拶が済んだところで本題ね。これはクロが審神者になるひと月前に、政府上層部の会議で議題に上がった内容なんだけど…」



聞いていく内にシロの手が震えていき、それを隠すかのようにきつく握られていった。

その内容は、最近増えつつある黒本丸への対策について。
今日も何名か注意したものの、反省するような素振りは見られなかったらしい。

前回の会議で注意した本丸の一つは既に黒本丸となっており、そこの審神者は解雇処分。刀剣男士たちは反発して政府が手出し出来ない状況。つまり私が修復する前の本丸と同じ状態にあるのだという。

そうなった本丸には、また力ある審神者を送り込み更正させて引き継げれば良いのだが、そう上手くいかないのが現状だ。



真「クロほどの霊力と知識、護身術にも長けてる審神者は本当に極稀にしかいない。薬研くんたちも知ってる通り、クロの前にも五人の審神者を送り込んでたでしょ?その子たちも審神者として申し分ない力の持ち主だったんだよ。…返り討ちにあっちゃったけどね」


「「…………」」



そこ。後ろめたいのはわかりますが目を逸らさないでください。



真「そこで政府が考えた対策は、現在いる審神者の中でもトップクラスの者でチームを組み、黒本丸修復更正部隊として特別任務をこなしてもらうこと」


瑪「…………」


真「前回の会議で白羽の矢が立ったのは三人。″翡翠(ひすい)″、″瑠璃″、ここにいる″瑪瑙″。そして今回、新たなメンバーとして″クロ″、君が指名された」


シ『ッ!』


「「!!」」


『…それは、私が黒本丸を実際に修復し刀剣男士を更正させたからでしょうか?』


真「そう。そしてその期間があまりにも早かったことに一目置かれている。着任して一週間足らずでの浄化と清掃…。それら全てを短期間で行えるほど膨大な霊力」



…何も言えない。政府が手こずっている黒本丸を、刀剣男士も誰一人として犠牲にせず修復させたのだ。そりゃ注目もされてしまうだろう。





「政府が目をつけんわけがない」





第三者の声がこの部屋に重く響いた。


 

ALICE+