思わぬ人物たちの登場に真黒さんも瑪瑙さんも驚いて立ち上がり、その様子に薬研たちも身構えるかのように身を硬くした。
まさかここに貴方たちが来られるとは…。
真「…っ父さん、母さん。何故ここに?」
真黒さんと瑠璃様の父親と母親、重春様と麗華様だ。お二人がわざわざシロのお見舞いの為に足を運ぶことは今まで無かった。たった一度だけ、養子にしたという報告の為だけに訪れたことはあったらしいが、それ以外ではシロのことなんてただの人質としてしか見ていなかった。
ここに来た理由は…恐らく……
重春様は真黒さんには答えずに鋭い視線で私をじっと見つめ、麗華様は真黒さんに優しく微笑まれた。
麗「お仕事お疲れ様、真黒。ここに来たのは勿論…、クロに釘を刺すために決まってるでしょ」
シ『っ!』
私を睨んでくる麗華様をシロは負けじと睨み返す。何も口に出さないだけまだ良いけど、腸は煮えくり返っていることだろう。
大丈夫だと、繋いだ手をそっと撫でながら私も彼らを見つめると、重春様がゆっくりと口を開いて圧力のある声を発した。
重「黒本丸修復の任務を見事こなしてみせたようだな。失敗し罰せられるのが余程怖かったと見える」
『…………』
気を逆撫でるような発言しか出来ないのかこの人は。お生憎様、そんな言葉に乗ってあげるほど私は貴方たちに興味がありませんよ。
…その分、シロが乗りそうなのを抑えるのが大変だけれど。ああ、薬研と大和守もこめかみがピクピクと…。
瑪瑙さんと鶴丸さんも黙っているけど拳がぷるぷると震えている。
やめてくださいね?貴方たちにまで暴れられたら困ります。……もしもの時のことも考えておかなければ。
麗「一つ修復したからってそれで終わりだと思わないことね。まだまだ多くの黒本丸があって刀剣男士たちが堕ちかけてるのは知っているでしょう?今回貴女に与えられた特別任務、もう瑠璃は取り組んでるの。精々あの子の足を引っ張らないようにね。貴女は霊力だけしか取り柄が無いんだから」
『はい』
麗「…ふんっ。返事だけは一人前ね」
真「母さん、もう良いだろ?」
真黒さんが然り気無く庇うように麗華様の前に立ってくれたけれど、彼女の口は止まることを知らない。でもこの挑発的な言葉も声も、私はどこか遠くに感じてしまうようになった。
時が経てば全てなくなる。自分のことなら尚のこと、呑み込むのは容易い。
麗「ま、そりゃあ妹の命を握られてる手前、反発なんか出来るわけがないわよね。それに首輪も付けられてだいぶ経つし、飼い慣らされてきたってことかしら?」
薬「っ!」
大和「(″首輪″?)」
真「母さ…!」
シ『ふざけんなッ!!』
『!シロ…』
抑えきれなかったか。
身を乗り出すシロを引き止めるものの怒りを抑えさせることはもう出来そうにない。
シ『なんでよ…っなんでクロばっかり!!なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!!霊力しか取り柄ないとか飼い慣らされてきたとかバカにすんのもいい加減にしてッ!!』
『シロ、落ち着いて。大丈夫だから』
シ『クロが何も言わないからって私まで黙ってると思ったら大間違いなんだからッ!!クロの力が怖くて仕方ないのはあんたじゃない!!霊力大きいからって無理矢理抑え込ませといて今度はそれを頼りに特別任務?結局クロの力を欲するしか出来ないあんたこそ権力しか取り柄なんかないくせにッ!!』
『シロ、聞かなくて良いから』
麗「ハッ。権力も何も持たない貴女に何も言われる筋合いは無いわ」
『麗華様ももうお止めください。お話は後で私だけに』
麗「あたしに指図すんじゃないわよ薄汚いメス猫が。またあの地獄に戻してやったって良いのよ?痣だらけできったない身体でも喜んで使ってくれる人間なんかこの世にごまんといるんだから」
『…っ』
シ『なんてことを…ッ!』
麗「貴女こそ、お姉ちゃんの足を引っ張るだけしか出来ないって自覚を持ったらどうなの?生きてるだけ無駄な存在なのよ貴女は」
シ『なッ、ぅ…っ!』
『シロ!!』
真「!?シロッ!!」
「「「「!!?」」」」
胸を押さえて凭れ掛かってきたシロを咄嗟に支える。
額に滲む汗。
繰り返される浅く短い呼吸。
小刻みに震える身体。
発作だ。
シ『ぁっ……ぅぐ……はっ』
『シロ、私の呼吸に合わせてゆっくり息をして。…薬研、大和守。シロの手を握ってて』
薬「わかった!」
大和「…っ」
『…大和守。お願い』
大和「ぁ…っう、うん!!」
シロを寝かせ二人に両手を握っててもらい、私はシロの胸に手を置いて真っ直ぐに目を見つめる。涙で滲んだ虚ろな目。トクトクと早い鼓動を落ち着かせるためには、乱れた呼吸を整えなければならない。