飲み会にてその3

「おいっ伊智子!のんでるか?」

「うわ、はい…ジュースを頂いてますよ…」

うわ、でた…。これが絡み酒というものか。
景虎は完全に出来上がっていた。
顔が近いからお酒の匂いがすごい。こっちまで酔いそうだ。

「おい景虎ー、伊智子に絡むな。飲みすぎだっつーの。もうやめとけよ、明日死ぬぞ」

「まだまだじぇんじぇん、だいじょうぶだから、まだのみたい」

絶対大丈夫じゃない。

目はすわってるし呂律もあぶない。お酒を飲んだことのない伊智子自身でさえ、この状態は俗に言うベロベロだということがわかる。
しかし当の景虎は全く気にしてないらしい。あろうことか、おかわりを注ごうとしている。

一緒に飲んでいる朱然と陸遜はこまった顔をしているし、景勝はあまり表情の変化がないように見えるけれど、微かに眉間にしわをよせていた。


「景虎…飲みすぎだ。もうよせ」

しびれを切らした景勝が、景虎の持つ日本酒を奪った。

「んんっ!なんでだよ〜返せ!」

「返さぬ」

「か〜え〜せ〜よ〜おれのしゃけ……おれの……………ぐう」

「はい寝た〜」

「寝るの!?」

景勝から日本酒の瓶を奪い取ろうとしてフニャフニャやってるうちに寝落ちた景虎は、そのまま景勝の腕の中でスヤスヤと寝息をたてはじめてしまう。

朱然は陸遜は「ようやく寝たなぁ」なんて言い合っている。赤ちゃんを寝かしつけた母親ですか?

床に瓶を置いた景勝は、伊智子のほうを向くと

「伊智子。すまぬが、そこのブランケットをとってもらえるか」

と言った。

「え…あ、ハイ!どうぞ」

伊智子は自身のすぐ後ろにあったブランケット(おそらく李典の私物)を、言われたとおり景勝に渡す。

景勝は自身の腕の中で眠る景虎が風邪をひかないようにと、ブランケットをかけてあげていた。や、優しい………。

そして景勝は、腕の中で景虎がすよすよと寝ているまま酒を再開し、朱然と陸遜もごくふつうに酒を飲み始めた。

「景虎さんって寝ちゃうんですね」

「いいんだ。そのうち起きてまた飲むから」と朱然。
「景虎殿はいつもこうなのです」陸遜も慣れた様子だ。

「決して酒に弱いわけではないのだが、ペースが早いからな…」
まるで父親のような優しさに満ちた声でそう言うのは景勝。年齢的にはスヤスヤ寝ている景虎のほうが年上のはずだが…。

「そうなんですか…」

目の前の不思議な光景についていけず、伊智子は難しいことを考えるのをやめた。

何かとプリプリ怒りやすい景虎だが、こうして静かに寝ているとかわいいかも。なんかほんとうに赤ちゃんみたい。
こんなこと思っていたと本人に知られたら烈火のごとく怒られそうだなあ、と思いつつ、景虎のぷにぷにのほっぺに無性に触りたくなってしまった。我慢我慢。

「…起きたら起きたでまたしばらく不機嫌だからな。頬をつつくなら今のうちだぞ」

「えっ………そ、そんなことしませんよっ」

心の中を景勝に見透かされてしまった。
非常に触って見たいが、その瞬間に起きられても困る。

「ふふふ…」

「もうっ景勝さん、笑わないでください!」

景勝の大きな手が繊細な手つきで景虎の頬をつついていた。見せ付けてくる!もー!





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