飲み会にてその2

お酒の入った男の人たちは大体うるさい。声のボリュームが大体普段の倍くらいになる。
楽進はお酒が入ってないけど普段から声がでかいけれど。

静かにしているのはほんの数人だ。

その中でもひときわ静かなのは関興。ただ、静かだけれど箸はずっと動いてる。

わかる、張苞さんのご飯、美味しいもんね…。そう思って関興を見つめていると、ふいに目がバチッと合った。


「……?」


関興は口元をもぐもぐさせたまま首を少しかしげて、そのまま箸をこちらに向けてきた。


「えっ?な、なんですか?!」

「食べたいのかと思って」

「あ…」

なにごとかと思ったが、どうやらおかずを分けてくれるらしい。

別にわけてほしくて見てたわけじゃないのだが、せっかくの好意だし、受け取ることにした。


「あ、じゃあ…いただきます」

「はい、どうぞ」

関興が分けてくれたのは、ポテトチップスみたいに薄く焼いたチーズだ。
チーズの風味と丁度いい塩味が、お店で売ってるおつまみみたいな美味しさがある。
伊智子はまだお酒を飲めないけれど、きっとお酒と一緒に食べたらもっと美味しいんだろうなあと思う。

「わあ、これ、美味しい。チーズがぱりぱりでやみつきになりそうです」

「うん…私はこれにタバスコをかけるのが好き。…かける?」


そう言いながら関興がサッとタバスコを取り出したので、伊智子はあわてて首をふる。
あんまり辛いものは得意ではないのだ。
断られた関興は、そう?美味しいのに…。と少し残念そうな顔をしてタバスコをしまった。じ、自前…?

気を取り直して。


「関興さんはよく張苞さんのご飯食べてるんですよね」

「うん…よく互いの家に行くし、その時に」

「へえ…仲がいいんですね」

「ちゃんと飯を食えってうるさいけど」

「おい、悪口なら本人のいないところでやれよなー」


関興が張苞への不満をポロッとこぼすと、それを耳ざとく聞いた張苞が関興の背後から肩を組んで顔を出してきた。


「ち、張苞さん」

「別に間違ったことは言ってない」

「お前がだらしないからだろ?飯も俺が言わないと何も食ってないことのほうが多いじゃねえか」

「食事はつい忘れてしまうだけだし、だらしないのではなくて私がやる前に張苞が勝手になんでもかんでもしてしまうからだ」


「え………ちょ……」


なんか不穏な空気になっちゃったぞ。できればここから移動したいが、どこもかしこも人だらけで逃げ場所がない。
どうしようとオロオロしていると、伊智子の腕を誰かがトントンと軽く叩いた。

「伊智子、私たちのところへおいで」

「か、関索さん、関平さん」

そして腕をひいてくれた関索がこっそり伊智子を助け出してくれた。
そうっと移動して、関索と関平のところへ腰を落ち着ける。

「あいつらは放っておけ。いつものことだから」

「いつもですか…」

「うん。別に喧嘩しているわけではないからね。ほら、見てごらん」

「え…………あ。」

関索が示した先、関興と張苞がいる場所へ視線を戻すと。

驚いたことに、さっきまで険悪なムードだった関興と張苞は仲良く楽しげに酒を飲み交わしていた。

いやいや、さっきまで、さっきの一瞬前までにらみ合ってたんじゃ……?
張苞なんて腹を抱えて笑い転げている。なんなんだよ。


「……私…お二人のことが…よく、わ、わからないです…」


戸惑いを隠せない伊智子がそう搾り出すと、関索も同意するように深く頷いた。

「あの二人のことは、たまに私たちもわからない」
「血をわけた兄弟にもわからないんだ。無理もない」

その反応は正常だぞ。と、何故か励ますように肩を叩く関平。

「はあ…。そんなもんですか…」

「そんなものだ」
「そんなものだよ」

関平と関索は、笑顔で笑いあう関興と張苞を微笑ましげに眺めている。
いまいち腑に落ちないが、無理やり納得することにしよう。

そういうものらしいし。
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