対極的な男女
ハンバーグが好き。
エビフライが好き。
肉じゃがも好き。カレーもグラタンもスパゲッティも好き。
1人になってからは、そんなご飯食べられなかったけれど、記憶の中にある食卓はいつもきらきら輝いていたような気がする。
お母さんの作ったご飯、もう一度食べたかったなぁ・・・
「お母さぁん・・・白身魚のフライにはたるたるそーすだよぉ・・・」
はっ
自分の声で目が覚めた。間抜けにも程がある。
白い部屋だった。なんか、診察室?みたいな部屋。
というより、なぜか自分が寝かされているところが診察台だったのだ。
うすい毛布もかけられているし、服も着替えさせられている。一体だれが・・・。
「おやっ、目が覚めたかい?」
しんとした部屋にいきなり明るい声が響いたので、びっくりしてそちらを向くと、小柄な女性が立っていた。背後にチョー怖い人も立ってるけど。
その女性は軽い足取りでこちらまで近づくと、にっこり笑って私の頭をなでた。
「うん、元気そうでよかったよ!どこか痛いところはあるかい?」
「・・・い、いいえ。ありません」
あんまり笑顔で言ってくるものだから、反射的に返してしまう。
すると女性は、満足げにうん、良かったよと笑った。後ろの人は相変わらずチョー怖い。
「店の目の前で倒れているから、ビックリしちゃったよ。連れてきて正解だったね、三成」
「あんな汚い格好で店の前にいられると、営業妨害になると判断したからです」
「こら!三成」
「俺は本当のことを言ったまでです。女、そこにお前の服を用意してある。さっさとそれを来て出て行け」
「三成!」
「・・・お客様を待たせてしまっているので、業務に戻ります。失礼致します」
なんだか私のせいで険悪なムードになってしまったご様子。
怖い人はフンを鼻を鳴らして出て行ってしまった。
女性はしばらくその後ろ姿を見ていたが、こちらに振り返って申し訳なさそうに言った。
「ゴメンね、悪い子じゃないんだけど・・・」
「い、いいえ、全て本当のことなので仕方ないです。服、綺麗にして頂いて・・・どうもありがとうございます」
用意されたという服を見れば、穴の空いてあった場所は修繕され、破れたところには可愛いアップリケがついていた。
いささかギョッとするが、風穴の空いたままの服よりは何百倍もましだ。
私はそれを握りしめて女性に頭を下げた。はやく出て行かないと、またあの怖い人が来るかもしれないし。
「えっと・・・それじゃ、もう、行きますね。すぐ着替えるんで・・・」
「えっ、もう行くのかい!?」
驚いた顔をして言われた。だってさっき出て行けと言われたばかりですし。
「そんなに急ぐことはないじゃない!どこか行く用事があるのかい?」
「い・・・いえ、それはないんですけれど・・・」
むしろ行く当てがなくて途方に暮れていた系なので。
「それならいいじゃないか!晩ご飯くらい食べたってバチは当たらないだろう?」
「えっ・・・」
それは非常に魅力的なおさそいだった。
3日間の断食を迎え体はそろそろ悲鳴を上げているはず。
それでも・・・見ず知らずの方にご迷惑をおかけするわけには・・・
ぐう・・・・・
「・・・・・・・・い、・・・・いただきます・・・」
「うん、いい返事だね!たっくさん作ってあるから、どーんとお食べ!!あはは!!」
沈黙の中で響くお腹の音を聞いたら、なんだかもうどうでもよくなってしまった。
- 3/111 -
対極的な男女*前 次#
|
しおりを挟む
小説top
サイトtop