親子5人
「ゲホ…」


次の日。
水に濡れた体を乾かさずに長時間いた清正は見事に風邪をひいてしまっていた。
仕事ももちろん休み。おとなしく自室のベッドで横になっている。

病人は静かに寝ているのが一番。なのだが……


「馬鹿は風邪をひかぬのが唯一の長所だと言うのに貴様は…これではただの馬鹿ではないか」

「清正〜!おい!死ぬのか!?死ぬなよ〜!清正〜!お前が死んだら…俺ぁー!」

「ちょっと正則!縁起でもないこと言っちゃダメだよ!
 清正、おかゆ食べるかい?昔から梅干のおかゆ好きだっただろう?あとりんごすりおろしてきたよ!おうどんもあるけど…あっ、ゼリーがいいかい?なんでもあるよ!なんでも良いなよ!」

「近場の薬屋でとりあえず効きそうな薬と栄養ドリンク全部買ってきたで!清正あ!しっかりしてくれや!」


「ちょっと…静かに…しててください…ごほっ」

およそ病人のいる部屋とは思えない騒がしさに、つい清正も一言でてしまうようで。
至って平和な光景に、扉の隙間から中を覗いていた伊智子も思わず笑ってしまった。



なぜ伊智子がここにいるのかと言うと。
清正にハメられたとは言え、あの事件の時に一緒にいたのは伊智子自身なのでどうしても気になってしまい、仕事の合間に様子を見に来たのはいいものの。
「ご家族」の皆さんに騒がしく世話を焼かれているようだ。

正則さんやねねさんはわかるけど、あの仕事に厳しい石田さんも仕事を他の人に押し付けて来てるし、社長まで面倒を見に来るなんて、そうとう清正さんのこと大事にしているんだな。


クリニックへの帰り道。

清正さんは家族が大事だと何回も言っていたけど、それは家族のみんなにも言えることだったんだ。
お互いを大事にしあえる関係って素晴らしいと思う。

私にはもう…誰もいなくなっちゃったけれど。
いつかまた優しいお父さんとお母さんみたいな人ができたらいいな。なんて思った。
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