母と兄弟と
「か、帰りました〜…」
「ただいま帰りました」
「おかえり2人とも!急に2人で買い物行ってもらっちゃってごめんね」
ホールにいたらしいねねがパタパタと走ってくる。曹操とかいう人物との話し合いはもう終わったのだろうか。
清正は大量の荷物を玄関に置いた。
清正の姿を目に入れたねねは、その姿にびっくりして声をあげた。
「清正!どうしたんだい、びしょ濡れじゃないか。はやく着替えないと風邪を…」
「…おねね様」
「? なんだい?」
「俺、やめます」
清正はねねを見つめてはっきり言った。ねねの動きが止まる。
「おねね様のため、秀吉様のため、三成、正則のため…家族のため…店のため……って言って、皆を理由にして、自分のことをないがしろにするのはもうやめます」
ねねの瞳が大きく見開かれ、揺れた。
小さな唇がかすかに震える。
「清正……」
その頬に一筋涙がつたっていった。清正は腕を伸ばし、その涙をそっと拭った。
「…すみません。」
その謝罪は、その涙へのものか。それとも今までの行いについてなのかはわからない。
「…謝らないで、お願いだよ。…ゴメンね。本当に今まで…ゴメンね…清正」
「おねね様…」
ついに顔を覆って泣いてしまったねねを清正はやさしく引き寄せた。
それに逆らうことのないねねの小さな体は、清正の腕の中にすっぽりと包み込まれた。
ねねを優しく受け止めた清正は、小刻みに震える背中を抱きしめていた。
「清正…あんたはあたし達の大事な大事な子供。誰よりも、何よりも、あたし達はあんた達のことを一番に想ってるんだからね」
「おねね様…ありがとうございます」
感動的に抱き合う二人。
そのうち野次馬がなんだかんだと現れて騒ぎ出すと、ねねはパッと清正から離れて濡れた目元を拭いながら笑顔を浮かべ
「さ!仕事仕事!今日も予約いっぱいだよ!忙しいよー!」
と慌しくパタパタと走っていった。秀吉のところへと向かっているのだろうか。
野次馬もぞろぞろと持ち場に戻っていく。
小さくなっていくねねの背中を眺めていると…
「清正…」
「……」
「正則…三成…」
そこに現れたのは三成と正則。クリニックMOのオープンを清正と共に駆け抜けた二人だった。
何か言いたげな二人に向き直った清正は、大きな声で
「すまん!」
と叫んだ。いきなりの謝罪に正則、三成だけでなく伊智子も頭にハテナを浮かべる。
「でかい客に愛想をつかされてしまった!来月から売上が減る!許してくれ!」
そう言う清正の顔は、言葉に反して晴れ晴れとしていた。
「清正…」
「清正っそれ、それって…」
ハッとしたような顔をした三成。
正則は一言で察したのか既に泣いている。ズビッと鼻をかむ音が響いた。
「馬鹿者」
「はあ!?」
一人冷静な三成の言葉は少々辛辣で、さすがの清正も片眉を吊り上げていた。
「お前の客一人分の売上げなど減ったところで困りはせん。一人でうちを支えてるつもりなら、大間違いだな」
「三成…」
「……なんのために俺たちがいると言うのだ」
「少しは相談しろ!頼りやがれっ!馬鹿野郎っ」
「三成…正則…」
清正は「ありがとな」と言って目尻を拭った。泣いているみたいだった。
伊智子はこれ以上ここにいたらいけないなと思い、物音を立てないようにそうっとその場を後にした。
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