なお、課題は分身の術とする。 ガーン、よりによって俺の一番苦手な術じゃねーか。 卒業の頃 順々に呼ばれていく教室内の生徒たち。 今日は、みんなどこか緊張したような面持ちをしていた。 そんな空気の中、犬塚さんの名前が呼ばれた。 「はっ!分身の術なんてちょろいぜ!卒業試験はもらったな。おいルカ!これ終わったら赤丸と祝杯決め込もうぜ!!」 「…え」 「できるに決まってるからな。じゃ、行ってくるぜ。またあとでな」 「…頑張ってください」 「おう!」 ニヤリと笑いながら、片手を上げて颯爽と教室を出て行く犬塚さん。 今現在進行中の卒業試験にやる気満々なのだそうです。 私は、去っていく犬塚さんを見ながら、自分の机で頬杖を突いた。 犬塚さんの後ろをついていく赤丸が、なぜかナゾノ〇サ的な存在を想起させる。 いけない、集中しなくちゃ。 私はゆっくりと瞼をパシパシ動かすと、不意に背後から落とされた声に、もうひとつだけ瞼を瞬かせた。 「おいおい、お前ホントに大丈夫か?」 「…?」 「まーだボーっとしてんのかよ」 「奈良さん?」 聞こえた声に振り返れば、そこには見知った顔がひとつ。 彼はどこか呆れを含んだような声を後続させていました。 「まぁいいけどよ。アイツの後お前だろ?忘れんなよ」 「ん」 「ほんとに大丈夫かね」と言いつつ、かったるそうな素振りで椅子に背中を預ける奈良さん。 その彼を目の端に捉えながら、私は珍しく窓の方を向いた。 廊下側の席の私にとって、窓はこの教室内で一番遠い存在。 だから、一年を過ごしたこの教室の中で最も愛着がないのがあの窓だった。 けれどなぜか見納めておきたいと思った。 理由はわからないけれど、真っ青な空が映り込んでいるなんとも快晴なあの窓を、今日は見ておこうと思った。 「おい」 「…」 「はぁ、ったく。おいルカ」 「え、はい」 「お前の番だってよ」 「あ」 「ったく、ほんとにだいじょーぶかよ」 「…いってきます」 「……はぁ」 そうして幾らかぼうっとしていれば、ヌッと視界の真ん中に現れた奈良さん。 どうやら、私に試験の順番が来たことを教えてくれたみたい。 私は彼に軽く頭を下げると、扉のところで私を呼ぶ案内人のところにパタパタと駆けて行った。 その際に、奈良さんは小さく「頑張れよ」と声を掛けてくれたけれど、私はそれに言葉を返すことができなかった。 「君がルカか?」 「はい」 「試験教室まで案内する。着いてきなさい」 カラカラと閉じられた教室の扉。 私は目の前の案内人の背中を見上げると、今から向かう先にいるイルカ先生を思い浮かべた。 きっと、ナルトさんの時には眉間に皺を寄せるんだろうな、と思いながら。 「ルカ、落ち着いてやればいいからな」 「…はい」 そして、辿り着いた先のイルカ先生は優しかった。 いつものように明るい笑顔をその顔に載せて。 試験終了を告げるまでの数分、彼は本当にやさしく笑っていた。 (ルカ、合格おめでとう) (…)