Talks about the old days U
南の大陸の船着き場に、一行がのった船は到着した。ポルトリンクと比べると少し簡素に見えるが、露店商がいくつかあり、宿屋の上にはこの辺りの風景が見渡せる屋上があった。
「エイト、この後はどうするつもり?」
船を降りたところで、ゼシカが問いかけた。
「お昼過ぎたから、とりあえず今日はここに一泊するか、この先にある町に止まるか……」
そのどちらかだ、と彼は言う。トロデを連れた馬車は船着き場の外に出て待機をしている。彼らは旅をし始めた頃、町中にトロデを連れていったところ、魔物と間違われて酷い目に遭ったそうだ。それ以来、町や村の外で待機するようにしたらしい。
「あっしはどっちでも良いでがすが、姉ちゃんや嬢ちゃんは……どうでげすかね」
横目でヤンガスが見やる。疲れてるのではないかと、思っているらしい。
「少し先の宿場町まで行けなくもないです。しかし慣れない船旅で疲れてるので、私としては今日はここに泊まったほうが良いかと」
「クローディアは一泊した方がいいか……。ゼシカは?」
「私は早く先に行きたいけど、船で疲れてるのは確かだわ……。やっぱここでゆっくりしたいかな」
「了解。じゃあ、今日はここの宿に泊まろうか」
こうして彼らは、今日は船着き場の宿に泊まることにした。ヤンガスとエイト、ゼシカとクローディアの男女ペアに別れて部屋をとった。
それぞれ部屋に行き、クローディアとゼシカは部屋のベッドに腰かけた。だがクローディアは立ち上がり、身にまとっていたローブを脱ぎ、あてがわれた部屋のタンスにしまう。
「…………」
一方のゼシカは、そんな彼女をぼんやりとみつめていた。ゼシカは、クローディアと親しくしたいと思っていた。女同士、色んなことを話したいと思っていたのだが、彼女はとても大人びていて、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出している。例えるなら、教会の女神像のような、神聖な感じだ。
「……ゼシカ、どうしました?」
じーっとこちらをぼんやり見つめるゼシカに、クローディアはいぶかしげに尋ねる。
「えっと、その……あなたって何歳なの?私より年上なのは確かだろうと思うのだけれど……。あ、私は17なんだけど」
急に声をかけられたゼシカは、しどろもどろしながら彼女に聞きたかったことを言う。
「……年齢、ですか………………」
すると、クローディアは黙り混んでしまった。ゼシカは聞いてはいけなかったか、と焦ったが……。
「……26?……いや27か?でも……」
彼女は自分の年齢を定かに覚えていないようだった。
「ごめんなさい、覚えてないわ……。最後に記憶にあるのは25なんだけれど、……それよりは上のはずよ」
ゼシカは、亡くなったサーベルト兄さんより年上だということに驚いた。兄と同じぐらいとおもっていたのだが、人は見かけによらないということを思い知った。
「あら、そんなに驚いた?」
クローディアは、口をあんぐりと開けたままのゼシカに目を丸くした。そこまで年上に見られていたか、はたまた若く見られていたか。後者なら喜ばしいことであるなと思いつつ、ゼシカと談笑しながら残り一日をのんびり過ごすことにした。
次の日の朝、朝食をいただき、荷物の確認を済ませて宿屋を発った。
「修道院で、ドルマゲスの情報があると良いわね……」
「マイエラ修道院は世界三大聖地の一つです。巡礼者も沢山いるはずですから、期待して良いと思います」
「そうだね……。それじゃ出発!」
やはり土地が違うために、前とは違う魔物が現れた。この辺りの魔物は、リーザス地方よりかなり強かった。そのために、エイトやヤンガスだけではすぐに倒せず、クローディアも錫杖を出さざるを得なかった。旅をし始めたばかりのゼシカは、なるべく後ろから魔法を使うようにし、前線に出ないようにしていた。
「うーん、やっば武器を新調した方が良かったかな?」
今までより手こずる魔物に、エイトが呟く。
「兄貴、この辺りの魔物が強いんでがすよ。力に自信のあるあっしですら、一撃では倒せねぇんでげすから」
「そうかなぁ……。あ、あそこに建物が見えてきたよ」
エイトは、川沿いにある建物を指差す。
「あれがマイエラ修道院かしら?」
「そのようでがす。それにしても、威厳が漂ってるでげすなぁ」
近づくにつれ、魔物が現れにくくなった。恐らく、修道院が魔物避けの結界を張っているのだろう。修道院につくと、まず大きな噴水が目に入った。川沿いにあるために、水資源が豊富なのだろう。建物の扉の上に、馬に乗った騎士の模様の大きなステンドグラスがあった。
「凄く立派ね……。さすが三大聖地だわ」
上を見上げながら、ゼシカが感嘆の息をもらす。
「見とれるのも良いけど、はやく巡礼者にドルマゲスの情報を聞こう」
「そうね」
エイトが注意を促し、ゼシカは我に帰った。そうして、扉を開けて中へと入った。