誰かが私の頭を撫でていた。
ああこれは夢だ、頭を撫でているのは父さんだもの。
“私”と自分のことを言っていた子供の頃だ。


ここどこ…?

目を覚ますと知らない部屋で少し驚いた。

自身の身なりはきれいになっていた、肌触りの良いパジャマを身に着けている。下着は着けてない…。

ええと…必死で記憶を辿っていると、ドアがノックされた。

「は、はい」と返事をすると知っている顔を目撃する。

「あ…」と声を上げると「気が付かれましたか?」と低い特徴ある声で声を掛けられる。
啖呵を切って喧嘩したあの時の運転手だ。

「あの、ここはどこですか…?」男に聞くと「テグン氏が現在滞在しているペントハウスです」と答えた。

「すいません…」と言って起き上がろうとするが、体が自分の物ではないように力が入らない。

「大丈夫ですか?まだ本調子じゃないんだ。高い熱もやっと下がったんです。君は一週間眠り続けたんだ。身体が相当弱ってる」

「い、一週間!?」自分でもどこから声が出たのかと思った。慌てて起き上がろうとするがクラリと目が回り再びベットに沈んでしまう。

「でも、帰らなきゃ…」

家で母さんが心配してる、一週間も家を空けてたなんて…。

「この身体では無理です」と男の言葉も遠くで聞こえる。


次に目を覚ました時は、夜の静寂の中だった。
どれだけ眠ってたんだろうと明かりを探すが見つからずそっとベットからそっと降りるはずが、踏み外して顔から落下して「ぎゃっ!」とすごい声を出してしまった。まだ身体に力が入らなず膝はガクガクしている。 

「いたた…」めちゃくちゃダサイ…顔面から落ちて痛さで涙が出た。
低い鼻がますます低くなる・・・。


「目が覚めたか?」聞き覚えのある声がした。
部屋が明るくなった。部屋のドア入口に、あの美しい男が立っていた。

「あ…」

あの時の…名前は何だったけ…。

彼が何故そこにいるかにも驚いたが、周囲の部屋の内装を見て仰天する。
おとぎ話の世界にでも紛れ込んだんじゃないのか目を疑った。
きっと貧乏人なんかには買えないんだろうなというような高価な家具、装飾品が置かれていた。
今どういう状況に置かれているのかよくわからない・・・喉がカラカラだ。

「あの、喉が渇いて…何か飲みたいんですけど…」

男がベット脇を指をさした。
そこにはウォーターグラスとグラスが置いてあった。
ウォーターグラスの水をグラスに移し替えると一気に飲み干した。

おいしい…生き返った…。

それを見ていた男がククッと笑っていた。
何がそんなにおもしろいんだろう、この美しい男は…

「なにがおかしいんだよ」

「おまえ…おもしろいやつだな…おまえ気に入った…俺の物になれ」

「はぁ?」

なにをいっているのこの人…
そういうの女性にいうもんじゃないの?
気に入ったから俺の物になれって…それはいそうですかとでもいうのだろうか、安っぽい恋愛小説の読みすぎなんじゃないの。

それとも男が好きなのかな?今の私はどう見ても男みたいだし…。

「あなた男が好きなの?」

「美しいものは何でも好きさ、男でも女でも…お前はなぜ男のような姿をしている?そういう趣味なのか?」

趣味なわけないないだろう…「人にはいろいろ事情はあんだよ、ほっといてくれ」と啖呵を切っていた。

大声だしたらをまたフラフラしてきた。頭に酸素がいってない感じがする。

「下品な言葉を使うな、あまり栄養がいってないようだな…ガリガリで抱き午後地が悪い…どんな生活している?」

なんだかこの人と話していると疲れる…美しいけど表情を変えない…人形みたい…何を考えているのかわからない…
それにこんなところで時間を潰している暇はないのだ。

「あなたみたいな金持ちにはわからないよ、庶民の生活なんてきっと…助けてくれた事感謝します、もう帰ります…服を返して…ここで暢気に寝ているわけにはいかない。母さんが待っているんだから、僕が帰らないと母さんに苦労かけてしまう」

男がiPhoneを取り出してどこかに掛けている。誰かと短く話すとiPhoneを差し出した。
恐る恐る受け取る、電話の向こうは母さんだった。

「#リン#倒れたんだって大丈夫?」

「うん大丈夫よ、ごめん…心配かけて…もう大丈夫だから」

「よかったわ…あなたやっと幸せになるのね…」

「え?」

「婚約おめでとう…婚約したんでしょ?驚いたけど…仕事も辞めてしまって…そんな相手がいるなんて知らなかったわ…相手の方の秘書の方がいらして…今後の生活費にとお金も振り込んでくれたの…ありがとう#リン#」

「母さん…何の話?」

自分の知らないところで話が進んでいる…誰と誰が婚約したって??
男の表情は無表情でうろたえる私を見つめている。
私からiPhoneを取り上げると「あとはお任せください」といい男は電話を切った。

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