宮(治)家の娘から




父の日である今日、お父さんがお風呂に入っている隙に、プレゼントと手紙をお父さんの着替えの上にこっそり置いた。




お父さんがお風呂から上がるのを待つ間、ソファにもたれてテレビを見ていると、サプライズプロポーズの特集が放送されていた。




「お父さんは絶対こんな派手なプロポーズしそうじゃないよね。侑おじさんならやりそうだけどさ。」


テレビを見つめながら、隣に座るお母さんに話しかける。




テレビには、シンデレラ城でガラスの靴を差し出してプロポーズする人や、観覧車の頂上でプロポーズする人、電光掲示板のメッセージでプロポーズする人など、様々なプロポーズをする男の人が映し出されていた。


基本無口で大人しいお父さんがこういうプロポーズをやるなんて、全く想像もつかない。




「ははっ、まあ‥‥そうだね。
でも治からのプロポーズは、結構ドラマチックなプロポーズだったんだよ。未だに忘れられないくらいね。」


「えっ、あのお父さんが?!」


驚きの眼差しを隣に向けると、お母さんがクスクスと笑っていた。




「お母さんもね、治のキャラから考えたらプロポーズされないまま結婚するんだろうなって思ってた。」


穏やかな表情でお母さんが言うと、その時のことを私に教えてくれた。









お父さんとお母さんは結婚する前まで同棲はしておらず、お互いがお互いの所を行き来していたらしい。


お父さんの家で寝泊まりした翌朝、目が覚めたお母さんは左手の薬指に違和感を感じたそうだ。


寝惚け眼をこすりながら見てみると、薬指には銀色に輝く指輪が。
*

*予想だにしない出来事に、一瞬お母さんは何も考えられなくなってしまったそうだ。


いつもならお母さんが起きてもお父さんはまだ隣で寝ているのに、その日だけは恥ずかしかったのか、隣にお父さんはいなかったらしい。




お母さんがリビングに向かうと、ソファに座ってテレビを見ているお父さんの後頭部が見えたそうだ。




『治‥‥これって‥‥。』


お母さんがお父さんの前に姿を現し、遠慮がちに尋ねた。

*


『名前‥‥‥‥結婚しよか。』


すると、ちょっと照れたような、でも嬉しそうな笑顔でお父さんがそう言った。




『‥‥はい。』


そんなお父さんにお母さんはぎゅっと抱き付いて、耳元で返事をしたらしい。


お母さんは、お父さんのような人がロマンチックなプロポーズをしてくれるなんて思いもしなかったらしく、嬉しさのあまり暇さえあれば指輪を眺めていたそうだ。
*








「へぇ〜そうだったんだ。お父さんも中々やるね。」


お母さんの話を聴き終えた私は、娘ながらに感心した。




「その時の治、すっごく可愛かったんだよ。」


「え〜見てみたい〜!」




楽しそうなお母さんの言葉に気持ちが昂ぶっていると、足音が聞こえてきた。


私は口を閉じ、お父さんの定位置であるソファの真ん中からサッと横へ移動した。




「プレゼントと手紙ありがとな。めっちゃ嬉しいわ。」


お母さんと私の間に座ったお父さんが、言葉と共にそっと私の頭を撫でた。




「今ね、お父さんのプロポーズの話してたんだよ。」


お父さんの言動がなんだか小っ恥ずかしかった私は、話題をはぐらかした。




「‥‥名前、お前話したんか。」


「後世に残しておくべき出来事だと思いまして、ついね。」


お父さんに問われたお母さんが、茶目っ気たっぷりの笑顔を返した。




「ね、お父さん。指輪のサイズはどうやって知ったの?」


「名前が寝てた間に測った。」


*「えっ、そうだったの?!全然気づかなかった。」


気になっていたことをお父さんに問うと、その答えにお母さんが目を見開く。




「だって爆睡しとったもん。」


「ふ〜ん?」


淡々と返すお父さんに、お母さんは意味ありげな表情をした。




「何ニヤニヤしてんねん。」


「その時の治はどんな顔して計ってたのかなあ〜って思ってさ。」


「‥‥うっさいわボケ。」


ニヤニヤしながら言うお母さんに、お父さんは気恥ずかしそうに頭を小突いた。





『私としては、お父さんがどんな顔して婚約指輪を買いに行ったのか、想像しただけで面白いけどね』と思いながら、ギャーギャーとじゃれ合う二人を眺めていた。






お父さんいつもありがとう。


お母さんとこれからもずっと、仲良く元気でいてください。


私の大好きなお父さんへ。