え、幻覚だよね?
「えーっと、先ほどは危ないところを助けてくださり…ありがとうございました!天パさんっ!!」
「…おまっ、それ助けた恩人に言う台詞じゃねーよ?侮辱だよ、差別だよ。あーいつから日本は髪型だけで差別されるような世になっちまったんだよ、天パ嘗めんなよコノヤロー」
先ほど、沢山の悪い天人たちに追われていた月白。だけど目の前のふわふわの髪が可愛らしい侍のおかげでなんとか命が助かったのだった。
「私、月白と言います。久々に地球に来たところあのような輩に追われちゃって……ほんと助かっちゃいました!」
「…俺ァ万事屋銀ちゃんやってる坂田銀時っつーんだ。よろしくなァ月白ちゃん?」
そう笑いながら手渡された名刺には確かに【万事屋 銀ちゃん】と書かれていた。
「あんなろくでもねー連中に追われるたァ…なんか事情でもあんのかよ?」
「…やー、そういうわけじゃなくてですね……私、ちょっと変わった種別なんで捕まってたら、人身売買にかけられるとこだったんです」
「変わった種別?」
月白の言葉に首傾げる銀時。さらに月白は話を続けた。
「え、えっと…夜兎って、戦闘種族の天人って…知ってます?」
「…あー…アレね。あぁもちろん知ってるよ?うちにも一匹いるからね、すんごいやつが」
「え、家に??」
地球に夜兎がいるなんて珍しい話だ。基本夜兎は戦闘を好んでいるから戦場ばかりいるものだと思っていたのだが……。
「んじゃ、お前さんも夜兎ってわけ?その割には太陽の光に当たっても大丈夫そうに見えっけど……」
「あ、いえ私は…夜兎と、人間とのハーフなんです。」
「ハーフ!?」
月白の言葉に、銀時は声のトーンが驚いたものへと変わった。
「一応人間の血も流れているということもあって、普通の夜兎より太陽に耐性があるみたいで……ちゃんとUVケアさえしとけば」
「そこらの女子高生と同じじゃねーか」
だるそうに頭を掻きながらそう呟く銀時に苦笑する月白。
「で、その夜兎と人間とのハーフってのが珍しいってんで狙われてるわけか、お前さん」
「そういう、ことなんですよね。私、ただ普通に地球でのんびり羽を伸ばしに来ただけなんですけど……一日しかないし」
せっかくあの波乱万丈な団長から少しの間でも抜け出せたんだ!…その貴重な少しの間くらい、自分の時間を過ごしたい。団長たちと一緒にいるようになって、自分の時間なんてことごとく無くなってしまったし……。
「え、何。月白チャンの働いてるとこって週休二日制じゃねーの?週休一日制?」
「いや、正確には無週休制です」
……そういえば、海賊春雨にさらわれてから私にまともな休日なんてあったことなんてないかもしれない。名目は"休み"ってなっていても朝から団長が部屋に押し掛けてくるわ、四六時中セクハラしてくるわ、襲われるわ………あれ私、なんて危険すぎるところで働いてるんだろう……。
「そんなこと言って、なんだかんだで月白も春雨のこと気に入ってるんだろ?」
「気に入るって言うか…そりゃあれだけいれば情も移って……」
………アレ、今の声。間違いなく銀時さんじゃない。だって目の前であんぐりと口開けちゃってるもん。瞳孔開きっぱなしで先程の声が聞こえた私の横を凝視しているもん。
そして私の隣からとんでもないほど威圧感が感じるんだけど……気のせいじゃないよね、いや、これは気のせいなんかじゃないぃぃ…!!
「水くさいなぁ、月白。抜け出してまで地球に来たかったんなら俺に言ってくれればよかったのに」
「……だっ、だだだ…だんちょ……!!」
にっこり笑みを浮かべながらこっちを見てくる団長からは殺気が感じられ、思わず泣きたくなった。
「…月白チャーン?誰これ、何これ。なんでこんな物騒な奴が君の隣に並んじゃってんの?幻覚か、銀さんももう歳か?コノヤロー」
「やだなぁ、俺のこと忘れちゃったの、旦那」
「……え、銀時さんの団長って知り合いだったんですか?」
「そんなことより、駄目じゃん月白。俺に黙っていなくなったりしちゃってさ」
「今度そんなことしたら、その首転がしちゃうよ」……そんなことを耳元で囁かれて、月白は瞳に涙を浮かべてぶるぶると身震いするしかなかったのであった。
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