喧嘩するほど仲がいい…?

「…おい、佐菜」
「うっうっ…」
「いい加減離れやがれ!これじゃ仕事に集中出来ねェだろうが!!」
「だ、って…だって!!酷いんですよトシさん!!」






場所は真選組屯所…土方の執務室。机に向かいながらやらねばならない書類をまとめようとしている土方の背中にぴったりしがみ付く、真選組隊士の中で唯一の女隊士…佐菜。先刻から土方に泣きついているのだった。




「総悟ってば…私に「お前、どんだけ食うんでィ」って私の食事にケチ付けるんですよ!!…もぐもぐ…」
「や、そりゃ総悟の言うことの方が最もだろ…って、つーか今も何食ってんだよ!?人の背中にしがみつきながら!!ちょ、おま、ボロボロ落ちてるじゃねーか!!」
「クリームパン。美味しいですよ、トシさんもどうです?」
「いるかっ!!」




土方は半ば呆れながらも言葉を返す。
今自分にしがみついている女は見た目こそ普通の女で、体も細身な方だが…異常なほど食べる大食い娘なのだ。あの図体のでかい十番隊隊長の原田でさえも飯を15杯も御代りなんてしないぞ…と心の中で土方は呟く。
佐菜とは多摩にいた頃の付き合いではあったが、年々彼女の食欲の勢いは増すばかり。総悟がそう言いたい気持ちもわかるだろう。



「…しかも、総悟ってば私がとっておいたメロンパンも勝手に食べちゃったんですよ!?」
「メロンパンくらいでガタガタ言うんじゃねぇよ!中坊じゃあるめーし!!」
「トシさん!メロンパンがどれだけ人気かわかりますか!?学生たちの間では昼になったらあっという間に購買では売り切れなんですよ!?デザート感覚で皆買っちゃうんですよ!!」
「そもそもお前は学生じゃねぇだろうが!」
「…なのに総悟ってば…ううっほんと酷いと思いません!?…もぐもぐ…」
「もうメロンパンくらいいいだろ!?今クリームパン食ってるんだしよ!!」
「そりゃ、本命のクリームパンナちゃんは死守出来たけど…たまにはメロンパンナちゃんにも会いたくなる複雑な乙女心わかりませんか!?」
「わかるかァァ!!なんだそのワケわからねー乙女心は!初めて聞いたわ!!つーかいつからアンパンマンの話になったんだ!?あぁ!?」



取り止めのない言い合いを後どれほど続ければいいのか…いい加減佐菜の相手は疲れたと土方は溜息を零す。しかし、彼女の気は未だおさまらないらしい。




「それにね…総悟の奴、「どこに肉ついてんでさァ?」とか言って…私の胸を両掴みですよ!?」
「……はァァァ!?つーかパンのくだりなんかより、それを早く言えよ!!」
「そのくせペチャパイだの、色気がないだの…ううっトシさん!!私、どうしたら色っぽくなれます!?」
「問題そこかよ!!…あーも、とりあえずクリームパン食べんのやめろ、背中でもぐもぐ食ってる音なんか聞きたくねぇ」
「いいじゃないですか、クリームパンくらい。トシさんの犬の餌よりマシですよ?」
「あァ!?何が犬の餌だと!?いいか!?マヨネーズってのはな…」
「マヨはどうでもいいです!私ゴマドレッシング派なんで」




…すでに収拾がつかなくなってきている会話だと二人は気付かず、話をしている土方と佐菜。今度は二人がギャーギャー揉めていると、騒ぎのもととなった人物が姿を現した。







「何騒いでるんでィ、土方さん。これじゃおちおち昼寝も出来ませェ」
「…あ、総悟」
「てめー総悟!!何が昼寝だ!さっさと巡察に行きやがれ!!ついでにこの馬鹿も連れてけ!!」
「馬鹿って酷いです!私、真剣に相談しに来てたのに!!」
「真剣に何を相談しに来たんでさァ?胸のカップがAからアップする方法でも聞きに来たんですかィ?」
「なんで今私のカップをバラすかな!?ていうか何で知ってるの!?」
「触れば大体わかりやす。俺の見立てだとA70と言ったところですかねィ」
「んなことバラすなァァァ!!」



佐菜は総悟を追いかけ回し、総悟はそれを適当にあしらう。…そう、土方の部屋で。




「てめぇらいい加減に仕事しやがれェェェェ!!」




…本日一番の土方の怒鳴り声が屯所内に響き渡ったのだった。


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