傷だらけの背中


「…琥珀、大丈夫か?しっかりしい…」
「…うぅ……」




部屋に戻って琥珀を寝かせるも、寝苦しそうに呼吸を繰り返している琥珀。体温も熱く、額に汗を滲ませている。




「…こらあかんな…一回着替えさせへんと…琥珀、ちょっと着替えるで体起こしてや」
「…ん……!…だめ…っ」




一瞬体を起こそうとするも、琥珀は再び横になる。首を左右にし、着替えることを拒む。




「何でやの、着替えへんと気持ち悪いで?」
「…いい、から…」
「ええわけないやん。ほら起き?」
「…だめ、だめ……」
「そない我儘言うたらあかん。熱出してんのに何言うてんの…ほら、起き?」
「…っ痛…!」




そっと琥珀の背に手を回し、強引にでも体を起こさせようとすると…いきなり琥珀が痛がり出した。そこまで力を入れて起こそうとしたわけでもなく、普通に押しただけだ。…ギンが不審に思うのは当然だった。





「…琥珀、怪我してるん?」
「……っちがう、よ…?そんなんじゃ……」
「ええから見せ!」
「あっ…!」




無理矢理琥珀の死覇装を脱がし、うつ伏せに寝かせる。すると、ギンは思わず目を疑った。彼女の背中に、たくさんの傷が出来ていた。真っ赤に腫れ上がってるもの、出血していたものが固まったもの、見ていて痛々しいものばかりだ。




「…琥珀…これ、どないしたん?」




琥珀が発熱したのがこの傷のせいなのは明確だった。ギンがそう問うのは当然のことだ。…そして、琥珀は恐る恐ると口を開く。




「……あ、こ…これ…琥珀、ドジって…怪我しちゃったの…」
「ドジって…って、この傷、そんなもんで出来るようなもんやないやん」




わかりやすい嘘だ。こんなこと、転んでも出来るはずがない。…誰かにやられたと考えるのが妥当だ。だが、琥珀はそれ以上怪我のことは何も言わなかった。



「…琥珀、鈍くさくて…ごめんね……ギンちゃ…ん…」
「…ちょ、琥珀!!しっかりしい、琥珀!!」





熱に意識を持って行かれ、琥珀は瞼を閉じる。ギンがどれほど呼んでも返事は返ってこなかった。





「……少しは落ち着いたみたいね」
「琥珀が気失っている間に四番隊連れてって正解やったわ」
「…ほんと、琥珀が無事でよかった…」
「全然よくないわ!何なん、あの傷…!誰やねん、僕の琥珀をこないに傷つけたんわ…!」
「あんたはちょっと落ち着きなさいよ、ギン。琥珀が起きちゃうじゃない」
「…!」





琥珀の様子を見に来た乱菊の言葉にギンは慌てて口を塞ぐ。今、気持ちよさそうに眠っている琥珀を見て、彼女が起きていないことを確認するとホッと一安心した。





「…琥珀が、言ってくるまで待ってあげなさいよ。…きっと、自分じゃどうも出来なくなったときにギンを頼ってくるはずだから…」
「乱菊…」
「待ってあげることも、大事なことなんじゃない」
「………」





乱菊にそう言われると、ギンは今まで思っていた言葉を失ってしまった。そっと眠りについている琥珀が…どこか自分から遠いところへ行ってしまった気がした。


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