ただ、抱きしめる
琥珀の体中にあった傷は卯ノ花隊長の治療により、綺麗になくなった。が、彼女自身は、まだ少し熱がある。





「琥珀、起きれるか?」
「…ん、大丈夫だよ。ギンちゃん…」





ギンに促され、ゆっくり体を起こす琥珀。顔色がまだ悪い少女を心配そうに見つめながらもギンは彼女のために作ったお粥を見せる。





「薬飲む前にちゃんとご飯食べんとあかんでな…少しでもええから、食べてや?ほら粥作ってきたで。はい、あーん」





れんげに粥を掬い、琥珀の口元まで持っていくギン。それを琥珀は照れくさそうに笑う。





「琥珀、自分で食べれるよ…?」
「ええやん。風邪引いたときくらい」
「…けど、なんか恥ずかしいや…」
「ほんのちょっと前までは僕が食べさせてやってたやん。…ほんま、大きくなってもて」
「…ギンちゃん…?」
「大きくなってくにつれて、僕に甘えてくれんくなってくなぁ…」





そう告げるギンはどこか寂しげで、思わず琥珀も眉尻を下げる。
…違う。本当は誰よりもギンに甘えていたいのだ。だが、どこか琥珀の中で素直に甘えることに遠慮を覚えてしまった。





「…おいしい」
「!…琥珀」





ギンが掬ってくれた粥を一口、口に含む。程良い味が口内に広がる。





「…ギンちゃん…今日はずっと、一緒にいてくれるの…?」
「当たり前やん。琥珀の風邪が治るまでずっと一緒におるで」
「…ギンちゃんと一緒…嬉しい」





そう微笑む琥珀があまりにも健気で可愛らしくて…ギンはそっと抱きしめた。今、自分の腕の中にいる小さな存在が何を一人で抱え込んでいるのかわからないが、そんなもの全て自分に打ち明けてくれればいいのに…と思わずにはいられない。





「僕も…琥珀と一緒で嬉しいわぁ」
「…一緒だね…ギンちゃん…」
「…ほんまやなぁ…」
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