嫉妬心に魘される
「市丸隊長〜!!これ、手作りなんです!よければ受け取ってください!!」
「ほな、おおきに」
「ギン隊長っ!今お茶御淹れしますねー」
「おおきに」




……ギンちゃんは、モテる。ギンちゃん目的で三番隊に入隊希望を出す女の子も沢山いる。三番隊だけではなく、他の隊にもギンちゃんのことを好きな人は沢山いて…それが嬉しいと思う反面寂しく思う。





「…むぅ」
「どこか不満そうだね、月丸君」
「…ギンちゃん、人気者だから…」




その様子を不満そうに自分の席で眺めている琥珀に、声を掛けるイヅル。普段ならいつもギンの傍にいるのは自分なのに…今は、自分とは正反対の綺麗な女の人がくっついている。





「…琥珀のって…言えたらなぁ…」
「…月丸君?」
「…ううん、何でもないよ…!」






誤魔化すように笑う琥珀。その視界の先にはギンと、女の人。気に入らない…だけど、そんなことを言う資格だなんて自分にはない。






「…ギンちゃんの、馬鹿…」
「…本当に月丸君は市丸隊長のことが好きなんだね」
「うんっ大好き…!……だから、たまにね…不安になる」
「不安…?」
「……いつか、琥珀とギンちゃんは…離れ離れになるときが来るんじゃないかなーって……」
「月丸君…」





だって、ギンちゃんの隣りに似合うのは子供の自分じゃない。大人っぽくて、綺麗な…乱ちゃんのような女性。自分とは正反対の女性。






「…そしたら、寂しい…な」
「そんなこと、ないよ。絶対市丸隊長は月丸君のことを手放したりなんてしないさ」
「…そうだと、いいなっ…!」





にっ、と笑みを浮かべる少女が、今どんな思いで笑っているのかを考えると胸が痛くなる。本当は笑えないくらい寂しく思っているだろうに。






「…あ、この書類十一番隊宛てのだ」
「じゃあ琥珀持って行ってくる!」
「それじゃあ頼むよ。…少しくらい遅くなっても構わないから」
「…はいっ」





イヅルから書類を受け取り、彼女特有のすばしっこさで隊舎を飛び出していく。それを見守りながらイヅルはギンの方へ視線を移した。






「市丸隊長!そろそろ執務に取りかかってもらえますか?」
「そやな、ほなそういうことやで君等自分等の隊舎に帰り」
「それじゃ市丸隊長…また〜」
「はいはい……」





女性は嬉しそうに微笑みながらギンに手を振り、帰っていく。それを適当に返すとギンははぁ…と深い溜息を付いた。





「…何やの、ほんまに。疲れるわ…」
「何言っているんですか。仕事もしていないのに」
「仕事なんかよりも、ああいう子等を相手する方が疲れんねん。…僕の疲れを癒してくれるのは琥珀だけや〜…琥珀!!…って、おらへんね」
「月丸さんには十一番隊に書類を届けに行ってもらってます」
「何でやの!琥珀はそないことせんでええって言うてるやん、イヅル」
「…彼女、ここにいたくなさそうでしたから」
「…何やて?」




イヅルの意味深な一言にギンは動きを止めた。






「寂しそうでしたよ、月丸さん」
「……ちょっと琥珀、迎えに行ってくるわ」
「あぁ、ちょっと!隊長は執務に…って…はぁ、行ってしまった…」




何となくこうなるだろうとは予想付いてはいたが。イヅルは仕方ないと、ギンの机に乗っかっている大量の書類の山に手を伸ばしたのだった。


1/52
prev  next