▼ Un investigatore e una storia

「如月の兄ちゃん。」

「ん?おー、コナンくんじゃないか。」



今日は(今日も)散歩をしていると、珍しくひとりぼっちのコナンくんと遭遇した。
他の子どもたちは居ないんだな、と思いつつ話し掛けてきたコナンくんに答えを返す。

こんなところで立ち話もなんだと思い、連れて行ったのはポアロでもなんでもない、ごく普通の小さな喫茶店。
アイスコーヒーをふたつ頼んで、目の前に座る小学生らしからぬ大人びた少年に目を向けた。

彼がただの小学生でないことなんて、何度か関わっていたので当たり前に解りきっている。
こちらもこちらの周りも過去は普通の中学生なんかではなく、未来や現代で多くの死闘も繰り広げたのだから今さら驚くことなんてひとつもない。

ただ、厄介なのは…。
子どもさながらの好奇心で、俺に深く関わりそうなのが厄介なところ。
自分で反応して連れて来ておいて言うのも悪いが、こんなところを敵対しているマフィアの連中に見られでもしたらコナンくんが危ない。



「この前はありがとう。如月の兄ちゃんが側に居てくれた、って報告されたよ。」

「いーえ。ま、俺は約束は守るタチなんでね。」



いったい何を言い出すのかと思えば、この前のベルツリー急行の件でお礼を言われた。
実際、彼らの側に居ても危ないことなんて何ひとつ無かったし、綱吉から言われていた俺のやるべきことは彼から邪魔をされず、事なきを得たんだ。
だから気にするな、と言わんばかりに手を振ると、頼んでいたアイスコーヒーが届く。

ストローでアイスコーヒーの氷をカラコロと音を立てながら軽く遊んでいると、「ねぇ」とコナンくんから再び声を掛けられた。
それに対して声を出すことなく視線だけで反応すると、コナンくんは真面目な表情を浮かべながら俺の顔を見ていることに気が付く。

−−−−−ああ、もしかして。
なんて、俺の中で予想されていく。



「あの日、警察が調べたら列車の上から少量のルミノール反応が出たんだ。」

「へぇ…。それで?」

「如月の兄ちゃん、用事を済ませて合流するって言ってたよね?…もしかして、その用事って…。」

「んにゃ、俺は知らねーよ。列車の上からルミノール反応が出たっつーのも初耳だし。」



コナンくんが真剣な表情で訊いてきたのは、まさに俺の予想通りの言葉で。
それに動揺することなくあっさり返事をすれば、コナンくんはすぐさま難しい表情になった。

悪いね、小さな探偵くん。
例えキミが普通の小学生ではなくとも、俺のせいで危険に晒すのは嫌なものなんだよ。
いくらなんでも、匣を使う相手の倒し方…なんて、俺の世界の人間以外は知り得ないことなんだからな。



「如月の兄ちゃんが言ってた用事、って言うのは…。」

「あれね、あんま言いたか無かったけど、実はチケットくれた奴の元カノとちょっと会ってたのヨ。より戻したいらしくて。おまえんとこ、マセガキいたろ?ポロッと漏らされて突かれても俺が困るからな。」



…まあ、あながち嘘ではない。
あのファミリーはもともとボンゴレと同盟を結んでいたファミリーで、一応は"元カノ"のような存在なのだ。
俺たちから同盟を切った、ってのはあるんだけど。

コーヒーを一口飲んで「用事はそれだけ?」と訊くと、コナンくんは納得していなさそうな表情を浮かべつつもしぶしふと言わんばかりに頷いた。

好奇心旺盛なことは良いことだけど、あんまり俺には深く関わるなよ…探偵くん。
俺の私情を知られたところで困ることはないが、正義感で警察に突き出されでもしたらそれは困るからねぇ。
ま、イタリア警察も黙認してんだ、俺たちボンゴレは日本警察なんかが関われるような組織ではない。

コナンくんの頭を荒く撫で、コーヒーを飲みきってから伝票を持ってレジへと向かう。
それを見たコナンくんが慌てて飲み干そうとしていたしていたものだから、つい「取り敢えずの会計して俺は帰るけど、おまえは好きなときに帰りなよ」と言って札をコナンくんに数枚渡してから喫茶店を後にした。

ま、去り際に渡したあの金は少ないとは思うのだが、多少のチップだとでも思ってくれていたら良い。
子どもだからと言って話してやれない、そのことに対しての懺悔の意味もあるけど、な。


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