▼ I miei ricordi

ぺろりと舌舐めずりをして、返り血として口の周りに飛び散った血を舐めとる。
自分の血であればまだしもこれは他人の血だし、鉄臭くて美味しくもなんともない。

だけどこうして血を感じることで、俺は裏の人間なんだな、と改めて自覚を持てる。

別段、例の少年探偵団に振り回されている自分のことが嫌いなわけではない。
むしろ感化され過ぎているのか、そんな平和な気持ちになっている自分も好きだった。

けれど俺は、平和ボケしてはならぬ人種で。
いつなんどきも気を張っていなければならないし、気を緩めたらその瞬間に殺されてゲームオーバーになる。
俺が生きる世界なんて、そんなものだ。
"油断"なんてもの、絶対に許されるわけがない。

ふと思い出したのは、2年ほど前に大怪我をして本部に戻ったときのことだった。
あのときは俺の不注意で怪我を負ったので、何かを言われても仕方がない。
けれど自分の血に塗れた俺を見た骸、雲雀、獄寺はいい気味だとでも言わんばかりに鼻で笑いやがった。
あのときのあの光景は今でも覚えている、いろんな意味でだが(今思い出しても腹が立つ)。

ボンゴレ最強と謳われる雲の守護者。
その雲の守護者に次ぐのが俺、闇の守護者なわけで、周りからの期待やなんやも結構大きい。



「俺も、プレッシャーとやらには強いんだけどな…。」



途中まで吸っていたタバコを地面に落とし、それについていた火を踏んでもみ消す。

別段、プレッシャーに弱いわけではない。
ただ単に、人から期待されることが嫌いなんだ。
俺は期待されるようなそんな出来た人間ではないし、完璧な人間からは程遠い。

俺はただの人間のような形の"人形"。
幼い頃から暗殺術を学ばされ、中学生になろうというときには既に仕事をしていた。
その仕事とは、もちろん暗殺という名ばかりの人殺しのことである。

だからなのだろうか…。
あの子たち…少年探偵団と触れ合っていると心が浄化されているような錯覚もするし、俺は人殺しではないのだとも思わされる。
でもまあ、俺は既に"ヒットマン"として"ボンゴレ闇の守護者"になっているのだ。
そんな俺が後戻り出来るほど、今はもう簡単なラインには立っていない。



「もしもし、綱吉?ヴァリアー連中から無理矢理押し付けられ…頼まれた仕事、終わらせといたから。あとはおまえらでやっとけよっつっといてー。」



俺はもともと、ボンゴレ直属暗殺部隊ヴァリアーとしてボンゴレに関わっていた。
その理由は両親がヴァリアーの幹部だった、ということもあったし、俺が暗殺に長けている人間だったから、という至極簡単なもの。
今となっては守護者なので、仕事以外でヴァリアーと関わることは滅多にない。

闇の守護者とは、候補も俺ひとりだった。
あのとき…リング戦でヴァリアーが勝てばそのまたヴァリアーに居ただろうし、こうして綱吉たちがリング戦に勝ったからこそボンゴレ本部に居るだけ。
仕事内容に然程変わりはないので、当時の俺はどちらが勝とうがどうでも良く、興味もなかった。

さて、俺のくだらない思い出話はさておき。
そろそろここからおいとましなければ、日本警察が嗅ぎ付けてくる頃だろう。
証拠となり得るタバコは下水道に捨て、ポケットから車のキーを取り出してその場から立ち去った。


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