▼ Nemico difficile

それは、ある日の出来事だった。



『大変です、如月さん!ヤツらが…スパツィオファミリーが動き出しました!』

「ゲッ…。よりにもよってあいつらかよ…。」



突然部下から報告が届き、スパツィオファミリーと言うイタリアでは悪い意味でわりと有名なファミリーが動き出したと訊いた。
奴らはボンゴレの同盟ファミリーでもあったのだが、綱吉や九代目の描く理想からかけ離れ、かなり乱暴なファミリーと言われている。
だから奴らは、同盟を解除されたのだ。

しかし、動き出すのがスパツィオファミリーとなると…これはまた、結構面倒だな。
日本に潜んでいるのはマリーナファミリーとスパツィオファミリーと、あともうひとつ。
それは綱吉から訊かされていたので知っていたが、まさか先日討たれたマリーナファミリーではなくスパツィオファミリーから動かれるのは予想外のことだった。

奴らは暴力的なわりに、知能が高い。
だから勝算のない争いに手を出しをしたりはしないのだが…もしかしたら、奴らは奴らなりの切り札か何かを持っているのかもしれない可能性がある。
俺は極秘で日本に来ているから、ボンゴレの動きを知り得てはいないと思うが…。

なんせ日本には、雲雀がいる。
雲雀のテリトリーでもある並盛でない以上、雲雀の手が出ないとでも思ったのだろうか。
いや、それはこの際、もうどうでも良い。
今はスパツィオファミリーの内情を知ることからはじめるしか、手はなさそうだ。



「まあ良い。俺ァ戦いに備える。おまえらもいつでも動けるように待機しとけよ。あのファミリーにはもしかしたら裏があるかも知れねぇから、イタリアにいる奴らに伝えとけ。スパツィオについて詳しく調べとけって。」

『了解しました。』



通話を終え、俺もスパツィオファミリーの動きを調べるためにパソコンを立ち上げる。
確か…綱吉から訊いた話しでは、どこかの組織に入り込んだスパイ(ネズミ)を暗殺して隠蔽工作を専門として動いている、とあったはずだ。

こちらは調べて解ったが、スパツィオもマリーナと同じく、例の組織と関わっているらしい。
スパツィオは動きが派手過ぎてFBIも目を付けているらしいのだが、逆にFBIの安否が気になってしまう。

何度も言うように、スパツィオファミリーとは暗殺などを得意とし…マフィア界の中でももっとも残酷で冷徹なファミリーでもある。
そんな奴らにFBIが殺されない可能性なんて、俺にはカケラも見えなかった。



「FBI、ねぇ…。」



もし彼らが、今日本に居ることでスパツィオファミリーについても調べていたら?
なかなかに大きいファミリーなんだ、下手を打つことはないだろうがFBIなんかに調べられたら迷わず情報を知る捜査官を殺しにかかるだろう。

俺はボディーガードじゃないのよ、なんてふざけつつも来日しているFBI捜査官を調べ上げる。
へぇ、女の捜査官ひとりと男の捜査官がふたり…。
それと、その男の捜査官の部下がひとり、とはねぇ。

こいつらがどんな動きをしてくるかは解らない。
スパツィオに関しても、FBIに関しても。

どう動くかは解らないが、先手を打たなければ無駄な被害が出てしまう恐れが高い。
匣を扱う相手に、そう簡単に銃が通用すると思うなよ。
こっちはこっちの戦い方があるのだから。



「………ん?」



画面を見ていて、ふと気になった。
なんだ、この男の捜査官…"赤井秀一"とは既に殉職している捜査官なのか。
けれど俺は…、この男に似たような奴を知っているような気がしてならない。
はて、誰だったな。

赤井秀一という男で気になることはあるが、今気にしたところで答えが出るわけではない。
取り敢えずはスパツィオの動きを観察して、奴らが本格的に動き出す前に俺がどうにかして殲滅させなければ他を巻き込むことになる。

うへぇ、まさかこんなに面倒なことになるとは思ってもいなかったよ。
こんなことになるんだったら、最初からちゃんと詳しく調べておくんだったな…。
俺がちゃんと調べないで仕事に行くのを解ってて、綱吉は押し付けてそうだけど。

あーあ、本当、面倒くさいことこの上ない。
俺という"闇の守護者"の存在を知らせるため、俺は仕事のときに幻術で姿を偽ったりはしない主義なんだ。
頼むから、俺が仕事をしているときに来てくれるなよ…アメリカのFBIさん。


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