▼ E un fantasma?

昨夜、部下から連絡があった。



『明日の夜、奴ら…スパツィオファミリーが動きます。お気を付けください。』



そう、今日スパツィオファミリーがとうとう動き出すらしい。
部下の話しによると、奴らは俺の対策をしているらしくボンゴレの情報が漏れていることが知らされた。

どこのどいつがスパツィオファミリーに情報を流したかは知らないが、奴らが俺の対策をしたところで負ける気はない。
もしも膨大な…それこそ、アルコバレーノのような人間が居れば苦戦し、怪我を負うこともあるだろうが。
まさかこの俺が、格下相手に殺されてしまうわけがない。

「お気を付けて」という部下の言葉を思い出し、舌打ちをひとつ。
まあ俺のプライドを知ってる奴が言っているんだ、それなりに危険は覚悟しておけということなのだろう。
行き過ぎた過信と油断は、命取りだ。



「っと、ここか…。」



部下から伝えられた場所に到着する。
恐らくは既に到着しているであろうFBIの気配も確認しつつ、物陰に潜んだ。

ここからの位置であれば、もし万が一にもFBIが飛び出したとしても対応してやることが出来る。
出来ればそんな邪魔虫には現れてほしくはないが…もしも俺の目を散らばらせるために敢えてFBIに情報を流していたとしたなら、その可能性もあり得るのだ。

頼むから足手まといにだけはならないでくれよ…と祈っているときにふと感じたのは、何者かの気配。
カツカツと鳴らされる靴音に、俺も自身の気配をグッと抑え込む。
とうとうファミリーのお出まし…か。



「………?」



数歩足音が聞こえたと思ったら、すぐにその足音が止まってしまった。
足音が響くとなればそれなりに近い距離ではあるが、それでも扉から近く、中に入っているとは到底思えない。

けれど、普段ふざけているとは言っても俺だってばかではない。
物陰に潜んで気配だけで様子を伺っていると、靴音がした方向からくつくつと音量を抑えた笑い声が届いて来た。



「おい、居るんだろ。隠れていないで出て来たらどうなんだ?」

「っ!」



少し高めの男の声に、思わず息を呑む。
まさかこの俺が気配に気付かれるだなんて思ってもいなかったから、身体には一気に力が篭ってしまった。

危うくバランスを崩しかけるが、ここで音を立ててしまったら身も蓋もない。
ここには誰も居ない、として誤魔化せたら良いのだが…それにしても予想外だ。
スパツィオファミリーにも、気配を読むことに長けている人間が居たとはね。



「どうせ影にでも隠れてんだろ?そりゃそうだ。おまえは雲隠れしなきゃならねぇような人間なんだからな。」



煽っているのか否か。
それは解らないが、的確とも思える言葉を並べる男には驚きを通り越して敬意すら抱いてしまいそうになる。

それこそまさに、行きすぎた過信…その結果なのだろうか。

こうなれば隠れていても時間の問題。
相手が行動を移す前に俺が匣を開口するには、既に匣を持っていなければならない…ということになる。
獄寺同様、ベルトに着けた匣に手を伸ばした瞬間、またしても男は声をあげた。



「早く出て来いよ、Silver Bullet!」

「(………Silver Bullet?)」



男の言葉に、動きを止める。
俺が呼ばれている紅蓮の死神などではなく、間違いなく男は、こう言った。
Silver Bullet、と。

聞き慣れない呼び名に思わず首を傾げていると、上から何かが飛び降りて来たような音が響いた。
周りの物を崩したりして音を立てないよう慎重に身体を反転させ、その音がした方向に顔を向ける。
視線の先に居たのは、細身で高身長の水色の髪をしたスーツの男と、全身を黒に染めている男だった。

どちらがスパツィオファミリーの人間かと言えば、恐らくは水色の髪をした方。
彼の指には至る所にリングが嵌められているし、首からもかなりレアそうな匣をぶら下げているから間違いないだろう。

スパツィオの男は俺ではなく、俺の予想ではあるがFBIかCIAなどの国家諜報員や警察組織の人間に気付いて、自身の前に出て来るようにと煽ったのだ。
どちらにしてもあいつはたぶん、スパツィオファミリーの幹部レベル。
そうなればあいつがあの男を殺せば間違いなく復讐者に捕まり牢獄行きだが、綱吉の命令にあるように"一般人を巻き込んではならない"となれば、俺があの間に出る他なくなってしまう。



「ハッ。やっぱりな。おまえだと思ってたよ、Silver Bullet。」

「まさかおまえたちのような奴らに俺が生きていると知られるとは…さすがの俺も、思わなかったよ。」

「ケッ。どこまでが本音なんだか。」



匣をひとつ手に取り、確認する。
これでいつでも準備は万端だ。
奴が目の前の一般人に手を出す前に、俺が奴の動きを止める。

頭の中でそういうシナリオを描いていたとき、奴が放った次の言葉で俺の動きが止まってしまった。



「Silver Bullet…いや、赤井秀一。」



赤井、秀一…。

おいおい、赤井秀一と言えばFBI捜査官で殉職リストに載ってた奴だろ?
そいつが今ここに居るって…え、もしかしてあいつ、幽霊?


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