1


Un


刀には、刀を。

「貴様ァァ真選組だな?!」
「…。」

力には、力を。

「悪いことをしたんだから、黙って捕まってください。」
「ケッ、温ィこと言いやがる。俺が女に捕まると思ってんのかアァ?!」

"女だから"と言われるのが嫌で、
必死に頑張ってきた私の首には、白いスカーフが揺れる。

私はこの真選組で、

一生、刀を振るい、
一生を終える。

それが、本望。
それが、幸せ。

なのに。

「私だって…、女に生まれたくて生まれたわけじゃないわよ。」
「アァん?何をブツブツ言ってんだコラァァ!ビビってんのか?!」

私は今、
予定外の状況に立たされている。

『まァさ、別にいいんじゃねェの?』

良くない。
良くないわよ!!

「死ねェェェ!!!」
「…。」

刀を振り上げて、
向かってくる男を見ながら、
私は抜刀もせずに、そんなことを考えていた。

すると、
ヒュッとした一陣の風と、

「ギヤァァァァ!!!」

目の前の男の断末魔。

その風が何なのか、
誰なのか。

匂いで、
すぐに分かった。

「おい紅涙、体調悪ィのか?」
「…土方さん…。」
「お前がボーっとしてるなんて珍しいじゃねェか。」

咥え煙草で刀を払い、
振り返りながら私を見る凛々しい姿。

「すみません。」
「らしくねェな。帰って寝てろ。」
「…いえ、まだ残党が居るはずですので。」

そう言った私を、
土方さんは物言いたげに見る。

その顔に、私は刀を握りしめて笑って見せた。

「もう、平気です。」
「…。」

土方さんは呆れたように溜め息をつき、

「なら行くか。」

咥えていた煙草を足で踏み消した。

「いいか、また辛くなったら言えよ?」
「はい、ありがとうございます。」
「お前に何かあったら、総悟が悲しむからな。」
"唯一のライバルだろーよ"

沖田君は、
いつまで私をライバルだなんて言ってくれるかな…。

いつかはきっと、
言ってくれなくなる。

「土方さん、」
「ん?」

私はこの人を、
その背中を、

「守らせてくださいね。」


永遠に、
目を閉じるまで見るはずだった。


「全力で、助太刀致します。」


土方さんは薄く笑い、


「お前が居るなら、俺は目ェ瞑ってても大丈夫だろーよ。」


"預けた"と云わんばかしに向けた背中。

いつから、
好きだと気付いたんだろう。

傍に居るだけで、幸せだった。

「…なんてね。」

そんなことだから、
今のようなことになるのだ。

「封印、封印。」
「紅涙?まじないか?」
「いっいえ、すみません。」

女々しい部分は、捨てた。

真選組内で、
そんな色恋は必要ない。

浮き出してしまえば、
私は許されない存在になる。

屯所に、
居れなくなる。

「…。」

いつまで、隠せる?

この身体。

いや、
隠し通せるわけがない。

「…はぁぁぁ…。」
「お前やっぱり体調悪いんじゃ…、」
「しっ深呼吸です!」

…ダメだ、
考えてばかりじゃ身体に悪い。


『いやー紅涙ちゃんと呑みたかったんだよなァ!』


あれは、
一ヶ月半前。

お気楽な彼の一言で、
私が数年間に渡って押し込んできたモノを、

"女"を、
見せつけられることになった。


星に願いを
〜 1 〜


- 2 -

*前次#