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幸せの地図


「はい、じゃあまずココとココに書いてくれる?」
「オッケー!」

案内する部屋がなくて、とりあえず応接室で書いてもらう。

ああ、早く土方さんを呼ばなきゃ。
でもルカ君を覚えてないなら、会わせても意味がないのかな…。

うーん…どうしたらいいんだろ…。

一人考えていると、
ルカ君が書きながら「お姉さんさ、」と言った。

「お姉さん、彼氏いる?」
「え?!なっ何、いきなり…。」
「…いるんだ。」
「いっいる、よ?」
「ふうん。」

そう言って、筆を机に置いた。

「書き終わった?じゃあ次は」
「ねえ、俺はどう?」
「え…?」
「俺、ちょっと前からお姉さんのこと知ってた。可愛いって思ってたんだ。」

急に左の手首を掴まれた。

「ちょっ、ちょっと?!」
「俺、やっぱ好きだなぁ…お姉さんのこと。見てると、すごくドキドキするんだ。」
「っだから私には彼氏が」
「本気で奪いに来てもいい?彼氏にも俺から話つけるからさ。」
「あっ、」

ルカ君に掴まれていた手を引き寄せられた。

その時。


「おいコラァ!」


これでもかというほど、力強く襖が開いた。
それをしたのは、

「習わなかったのかァ?人のもんは取っちゃいけませんってよォ。」

土方さんだった。
な、ナイスタイミング…。

「あ。もしかして、アンタが彼氏?」
「だったらなんだ。」
「うっわー、関白タイプ。古いよねー。」
「んだとコラァ!」
「なーんか冷たそうな顔だし。」
「悪かったな、こんな顔だから仕方ねェだろ。」

土方さんは顔を引きつらせながら言う。
私は二人を見ながら、小さく溜め息をついた。

やっぱり見ただけじゃ思い出さない、か…。

「紅涙、コイツは何だ?」
「あっ彼は」
「新しい彼氏。よろしくね。」
「ち、ちょっとルカ君?!」
「紅涙…、また随分とややこしいヤツを連れて来やがって。」
「違うんです!彼は拾得物をですね、」
「拾得物?」
「はい、あの」
「紅涙ちゃんに拾ってもらったんだ、俺。」
「ちょっと?!」
「お前…っ!」

わっ怒られるっ!
土方さんがワナワナと拳を震わせて振り上げた。

「いい加減にしろっ!」

思いっきり振りおろした先は、

「イッたァァァァ!」

ルカ君だった。

「だっ大丈夫?!」

頭をおさえてうずくまるルカ君。
殴った土方さんを見れば、彼は彼で唖然とした顔をして黙って立っていた。

何だか…様子が変?

「あっあの土方さん…?」
「紅涙…、俺…、」
「紅涙ーーっ!!」
「わわっ!ルカ君?!」

急にルカ君が私に抱きついて来た。
土方さんはハッとしたようにそれを見て、


「離れろ馬鹿兄弟ィィー!」


私とルカ君を引き離した。
だけど彼は土方さんを振り払って、もう一度私に抱きついた。

でも…あれ…?
土方さん、…今…兄弟って…?

「会いたかったよ、紅涙!」
「ル、ルカ君…?」
「コラァ紅涙!離れろ!警戒しろって言ってただろーが!」
「っ土方さん?!もしかして」
「迎えに来たよ、紅涙。こんな土方 十四郎の傍から連れ去ってあげる。」

もしかして…、
もしかして…っ!


「二人とも、思い出したの?!」


私の言葉に、
土方さんはたいそう迷惑そうな顔で、
ルカ君は満面の笑みで、


「「ああ、思い出したよ」」


そう言った。

「でもさ、よりにもよって殴られて思い出すなんてないよなぁ。」
「ったく、こっちとら殴り損だ。」

二人は睨み合ってたけど、
私は目に映る光景に、胸が震えた。

「っ…」
「紅涙…思い出して嬉しい?」
「おい、馴れ馴れしく紅涙を呼ぶな。」
「嬉しいよっ…、嬉しいに…決まってるっ!」
「紅涙っ…」
「てめェっ!軽々しく紅涙に触るな!」

二人が取っ組み合いをする。
その間で、私は泣きながら笑っていた。

すると、


「俺を抜きで盛り上がってんじゃねーよ。」
「コウ君?!」


コウ君が立っていた。
黒い短髪の、目つきの鋭い彼。
右手にはレコードショップの袋を持っていた。

「げ。コウってば、何でここが分かったんだよ。」
「さァな。お前が思い出した時、引き寄せられたんじゃねーか?」
「なるほど。ほんとに俺たちってどこまでも縁があるんだね。」

鼻で笑い合うコウ君とルカ君。
それを見ていた土方さんが「お前らよォ、」と言う。

「早くねーか?死神辞めてから今に至るの。」
「そう?一応、二百年ぐらい閉じ込められてたんだけど。ね、コウ。」
「ああ。お前らとは時間軸が違うからな。だが、わりと罰則はなかった。」

驚く私たちをよそに、
ルカ君は頷いて「意外だったね」と笑った。

「ほんとはもっと早く出られたんだけど、赤ちゃんから出発するのは嫌で二百年も掛かっちゃった。」
「俺たちが産まれたてからスタートしてみろ、再会する頃には早雨がヨボヨボになってるかもしんねぇ。」
「大丈夫、俺は紅涙がヨボヨボになっても愛すよ。」

あ、ありがと…。
だけどヨボヨボか…。

微妙な顔をしていた私の横で、土方さんが「どの立場で物言ってやがる!」とルカ君に言った。

それをルカ君は華麗に無視した。

「だけどさ、コウ。記憶が完全に消されてなかったのは…泣ける演出だったね。」
「…そうだな。今頃、後悔してんじゃねーか?」
「ははっ、かもね。」

笑う彼らの表情がやわらかくて、
こうなった今も綺麗で、どこか尊いように感じた。

「…ルカ君、」
「うん?」
「コウ君、」
「ん。」

二人を呼んで、私は土方さんの顔を見た。
土方さんは察したようで、不満そうに眉を寄せた。

「土方さん。」
「…わァってるよ。」

私たちは彼らに向き直った。
私は笑った。

「ルカ君、コウ君…。」
「「?」」
「いっぱい、いっぱい…ありがとう。」

土方さんが私よりも早く頭を下げた。

「…今があるのはお前らのお陰だ。ありがとう。」

私は隣で深く頭を下げる土方さんを見て、愛おしさで胸がつまった。

彼の手を取って、繋いだまま、私も頭を下げた。

もっと細かく伝えたい。
だけど今は何よりも、"ありがとう"が合ってる気がする。
それだけで、いいような気がする。

だから、


「本当にありがとう、ルカ君、コウ君。」



私たちの今を、ありがとう。


少しの沈黙の後、
頭の上で「紅涙、」と明るいルカ君の声が呼んだ。

「俺たちも"ありがとう"だよ、紅涙。」
「え…?」
「ずっと繰り返してた時間を、俺たちしかいなかった世界を壊してくれたんだ。」
「ルカ君…、」
「紅涙に出会わなければ、人になんてなりたいと思わなかった。」

ルカ君は周りを見渡して微笑んだ。

「生きることって、こんなに世界が綺麗に見えるんだって知らないままだった。」
「そうだな、ルカの言う通り…この世界はまだまだ綺麗だ。」

彼らはきっと、

これからたくさんの感動を知って、
たくさんのモノに触れて、生きていく。

その中で、
泣いたり悩んだり、辛いことがあった時は、
どうか、ここへ来て手助けをさせてほしい。

次は私たちが、
あなた達を助ける番だよ。


「ってことで、これからもよろしくね紅涙!ついでに土方!」
「よろしくしねーし!ってか"ついで"って何だよ!」
「ついではついでだ。よろしくな、早雨。」
「おい紅涙!こんなヤツら放っておいて、墓参り行くぞ!」
"オラ!とっとと帰りやがれ"

土方さんは追い払うかのように、ホットケーキの素をルカ君に押し付けた。

「あっそれは…って、ええっもう出発ですか?!…まぁ準備は出来てますけど。」
「こいつらの相手してるとキリがねェ。」
「はいはい、俺たちも出ますよ。」
「ったく土方は小姑かよ。」
「ンだとコラァ!」
「じゃあね紅涙!また後で!」
「う、ん?"また後で"?」


こうして私たちは、
バタバタと連休をスタートすることになった。

てっきり師匠のところへ行くと思っていたが、辿り着いた駅は違った。

「あれ?土方さん、どこのお墓参りですか?」
「兄のとこ。」
「ああ!為五郎さんのでしたか!私、てっきり師匠のところだと思ってましたよ。」
「初めは、そのつもりだった。だが…」
「…?」

土方さんは私をチラリと横目に見て、ぼそりと口にする。

「…ジイさんとこ行くには、まだ早ェんだよ。」
「"早い"?何がですか。」
「やっ約束した人数が…足りねェんだよ。」
「"人数"?」
「…。」
「土方さん?」
「だァもぅ!いいから行くぞ!」

そう言って、雑に繋がれた手。
少しだけ紅い耳をした土方さんの背中を見ながら、しっかりと握り返した。

もう私から放したりしない。
繋いでくれる手がある限り、私も手を伸ばすよ。

「土方さん、"早い"って?"人数"って?」
「いい、忘れろ!」
「気になります!ねー土方さん、どういう意味ですか?」
「…。」
「ねー、ねー。」
「うるせェ!絶対教えねー!」
「えーっ?!そんなっ」

「あっ来た来た!こっちだよ紅涙ー!」
「遅ぇぞ、早雨。」

「るっルカ君とコウ君?!」
「なっ、なんでお前らがここに居るんだよ!」
「それも私たちより先に着いてるし…!」

「早雨らの行き先聞いた。」
「土方の仲間が教えてくれたよ。コウがちょこーっと聞いたらケロッと吐いちゃった。」

「チッ。…それ、どんなヤツだった?」

「なんか影薄い人。ってことで、よろしく!」
「早雨、泊まり先どこだ?大部屋に変えてもらう。」
「おおっコウってば手際イイ〜!気が利く〜!」

「泊まるのはこの旅館だけど…。」
「コラ!紅涙、教えんじゃねェ!テメェっ兄っ!なに勝手なことを…!邪魔すんな!」

「いいじゃん、皆で楽しめばさ!」
「今日は再会記念だろ?」
「そうそう。楽しさも三倍、気持ち良さも三倍だよ…紅涙、ふふ。」

「ぜってェ連れてかねーし!」


あの場所で待ってる
〜 ver. WHITE END 〜


「こっそり抜けましょうか、土方さん。」
「くく、それも楽しそうだな。」

「あー今キスした!」

「フンッ、しまくってやる。覚悟しとけ。」
「ちょっ土方さん?!ッんん」


いつだって、
俺はお前の傍にいるから。

焦らずに、二人で歩いて行こう。

いつか、
俺たちのガキが、
この兄弟と遊ぶ未来の待つ、その場所まで。

2012.11.25
ver.WHITE End...
*せつな*


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