肆・助手ノ後悔
食後、調速機を使って文豪たちの補修を行った。
喪失や耗弱のままの者はいないのが幸いだった。

今日のお礼として一番風呂に入れさせてもらうことになり、必然的に女性である彼女は1人で一番に入っている。安全そうな余裕派3人が風呂番をしているので心配はいらないだろう。

彼女が上がるのを待つ間、ゼリーを食べながら2人は高村とお茶をしていた。
そのゼリーを含め箱で買って来た菓子類は、その圖書館の甘味好きのためである。そろそろ枯渇しているだろうことを見越して差し入れたというのだから、恐るべしだ。



「僕のせいなんだ。」

物憂げな顔で呟いた高村はそっとテーブルの上にカップを置いた。

彼は、徳田や中野に次いで3番目に転生した。故に司書からの信頼も厚く、助手を務めた回数も多い。
だが、助手といえどその仕事は一般的な『司書』としての仕事しか手伝ってこなかった。
司書はいつだって、文士たちの世話は自分でやっていた。それは彼らが侵略者達との戦闘や執筆活動に専念できるようにだ。また、彼らが生きた時代は男性が家事をするのはと思われがちな時代であったこともあろう。
それを尊重していたつもりだった。だが実際はどうであったか。只々甘えていただけではないか。

「こんなおおごとになったのは、僕のせいだ。
もし僕が、助手をする機会が多い僕が、電子機器の使い方をちゃんと習っていればこうはならなかったかもしれない。
みんなに苦労をかけなかったかもしれない。」

苦しそうな声で懺悔する彼。
辰雄はカップにお茶を継ぎ足してから、高村と目線を合わせた。

「なんだか、素敵ですね。」

辰雄はふふと微笑んでいた。それには秋声も思わず彼の方を驚いて向いた。

「司書さんがみんなを大切にしてくれていることがより一層感じられたわけじゃないですか。
この一件で、きっとこの図書館はもっともっと、素敵な場所になると思いますよ。」

ふんわりとした彼の笑みに、自然と高村も笑顔になる。
流石は癒し系と吹聴されているだけある。

「君たちは新米さんだろう?
僕たちのところを反面教師にでもしてくれよ。
まあ、その必要は無さそうだけれど。」

普段通りの明るさを見せた高村に、2人ともつられて笑った。




「今日は本当にありがとう。」
「いえいえ、お気になさらず。」

ほかほかと風呂であったまりとてもいい顔色をした3人は、皆に見送られながら図書館を後にしようとしていた。

「もし何か困ったことがあったらいつでも頼って。」
「あら、頼もしいです。」

ドライな彼女は軽やかに笑うと、高村と手を握り合った。
司書さん、早く回復するといいですね。
柔らかい笑みとともに言われた言葉を、高村はありがたく受け取る。



「さ、帰ろう。何が食べたい?」
「では、洋食がいいです。それも、僕たちが食べたことがないような。」
「僕もそれがいいや。」

一行は車の中で賑やかに騒いだ。
初日から色濃い日となった帝國図書館。
司書となった桂花は何やら楽しそうに笑っていたのであった。
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