序・司書
父親から受け繼いだものは參つ。
壹つ、ストレヱトの黒髮。
貳つ、無駄に顏が廣い分のコネクシヨン。
參つ、物怖じせぬ肝つ玉。

座右の銘・『怯んだら負け』と『使えるものは使ふ』

其の見た目の割に、を世辭にも可愛いとは云へぬ性格の女性は大きなキヤリヰケヱスをガラガラ音を立てながら轉がして、圖書館にやつて來た。
まだ朝日が昇つて間もないので、夲を借りに來た譯ではない。
今日からここが彼女の職場なのだ。




文豪たちが殘した作品が黒く染まる事件の爲、アルケミストの力を持つ者は特務司書として各地に設立された國定圖書館に配屬された。
當初は極ゝ内密に行われていたらしく、無理矢理司書にした案件もあつたやうだ。
だが併しその隱蔽も限界があり、既にある圖書館を國定圖書館にし更に司書を公募することと成る。
その司書の中から、錬金術師としての才を持つ者を特務司書に任じ、極祕任務に當たらせた。
彼女が配屬された帝國圖書館も其の壹つ。彼女の父親が軍の要人であつたことに起因するのか、そこは總ての國定圖書館の要ともなる場所であつた。尚、其処に彼女の意思は一切含まれていない

さうして司書となつた女だが、無論、彼女とて初めから乘り氣であつた譯ではない。
だが、今の彼女は何處か状況を樂しんでいた。
薄く色づいた唇が柔らかく弧を描く。

これはある司書と灰汁の強い文豪たちが織りなす、壹つの圖書館の物語。
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