■ 女子話2 女の子の特権、というか、今のところ私だけの特権。 「なまえちゃん」 「まもりちゃん!」 呼びかけた声に嬉しそうな顔で振り向くこの人は、泥門の悪魔こと泣く子も黙る蛭魔妖一その人の──年上の恋人だ。 当然私にとっても年上なわけで、始めのうちは「ちゃん」付けで呼ぶなんて抵抗があったのだけれど、今ではこうして自然にちゃん付けで呼べるくらいにこの呼び方が定着してしまった。 きっかけは、偶然に街で会って、一緒に買い物することになったあの日。 せっかくだし、今日だけでいいから! とよくわからない理由で強く希望する彼女に根負けする形で変えた呼び名は、本当にあの一日だけのつもりだったのだけれど。 でも、呼ぶとあんまりにも嬉しそうに笑ってくれるから。 つられて続けていたら、癖になってしまった。 呼捨てにはヒル魔くんだけに。 ちゃん付けは私だけに許された呼び方。 (もちろん、二人きりの時は知らないけど。でも少なくとも皆の前で、ヒル魔君はなまえちゃんとは言わないし。) 「まもりちゃーん、会いたかったぁ」 そう言われてみんなの前で抱きつかれるのは、ちょっと照れるけど悪い気はしない。ヒル魔君もさすがに相手が私だと、一瞥以上の反応はしないし。ああ……そういえば、こないだ私につられたモン太君が「なまえちゃん」って呼んだ時はヒル魔君ったら凄い顔で睨んでいたっけ。 あとの練習でも重点的に虐めていたし。そのわかりやすい焼きもちに、悪いと思いながらも吹き出してしまったんだった。 けどね、ヒル魔君。 もうちょっと、気にしてもいいんじゃないかな。 「あーん、まもりちゃん可愛いー。あったかーい。いいにおーい。柔かーい。美味しそーう。……ねえ、ちょっと、おねーさんとあっちでいいことしよっか」 「え、ちょ、ちょっとなまえちゃん!? ストップ!! 触り過ぎ……え、あ、だめ!! だめですって!! そんなとこ触っちゃだめですってー!!」 ……ああ、ほらヒル魔君。 あなたの彼女の場合、女同士だからって安心はできないと思うの。 (2014.04.22) [ 戻 / 一覧 / 次 ] top / 分岐 / 拍手 |