■ 「缶詰」説明編

「見て見て!じゃじゃーん!」
「あ? 今度はなんだ藪から棒に」

 効果音付きで差し出したのは、缶詰で膨れ上がった袋である。
 胡散臭そうな顔をしながらも、尋ねてくれるゲンスルーに機嫌を良くした私は、ふふふと勝ち誇ったような笑みと共に「教えてあげてもいいけどー」と男の前に躍り出る。

「知らないんだぁ。ゲンスルーったら遅れてるぅー! あ、ごめん痛い、痛いから!」
「無駄口を叩くな。で? それはなんだと聞いているだろう?」

 さて。
 じんじんする頬をぷうと膨らませて、可愛く不満を伝えるも投げ返される視線は冷たい。あんまり空振ると虚しくなるので、せめてこれ以上ない程に堂々と胸を張ってみる。

「よーし、目ぇかっぽじってよく見なさいよ」
「いや……お前、目ぇほじったら地獄絵図だろうが」
「あらやだ、うっかり。まぁ、ゲンスルーなら目でもいいんじゃないかしら。……ちょ、痛い、痛いって、ごめんって!」
「おや? 昨夜あれほど痛いくらいが好いと言っていたのは、どの口だったかな」
「……うっさい! そーいうこと言うの禁止です! だいたい、ああいう時の痛みってのはこう鼻つまんだり、ほっぺたつねったりってのとは別次元の話ですからね!」
「で? これは何だと聞いているんだが」
「酷い、流した! もうっ、それが人にモノを尋ねる態度……あ、やださすがに<一握りの火薬>は勘弁。やだやだ、ちょっと、ちゃんと話すから構えは解いて、ね、ね?」


 解放された頭を軽く振って、ごほんと咳払いを一つ。
 さてさて、仕切り直しまして。

「こちら<変則的不可思議封入缶>っていう知る人ぞ知る面白アイテムでね。長ったらしいから不思議缶とか単に缶詰って言うんだけど。モノとしては至って単純で、缶の中には何かしらの『効果』が封印されているの。で、開けた人にはその効果が表れて……まあ、ゲームでよくある『状態(ステータス)異常』を引き起こすっていう、効果ランダムのどっきり缶ね。あのマッド博士と、怪しげな薬で有名な魔女がコラボしているっていう西の秘境……通称『直売所』でもなかなかお目にかかれない超レアものなんだから。ゲンスルーが、っていうか普通にプレイしている殆どのプレイヤーが知らないのも無理はないわ」

「超レアって、なんでお前がそんなもんを大量に……いや、言わなくていい。つーか、指定ポケットでも無い上に、肝心の効果がランダムじゃ使いようがないだろうが」
「やだなぁ、この手のは自分に使うのが楽しいんじゃないの。一応、中身は命に別状がないもので、効果も一時的……ものにも寄るけど、三十分から丸一日くらいまでっていう、この手のアイテムにしては面白い程の安全設定らしくてさ。表立っての知名度が無い分、熱烈なファンは凄いんだから」

 ほらほら、ここの説明読んでみて。そう言って側面の小さな文字をゲンスルーの目に押し付ける。

「で、その状態異常ってのが、ものによっては念をかけられた時みたいなかかり方らしいのよ。つまり……予測不能な異常症状を経験して、対処を探る! どう? こんなのなかなか出来ないトレーニングでしょ。面白そうじゃない?」
「……状態異常ねぇ。まあ、知識も経験も引き出しは多いに越したことはないか……おい、見ててやるからなんか適当に開けてみろ」
「えええ、最初は一緒に開けようよ」
「んな怪しげなものにいきなり手を出せるか。ほら、さっさとしろよ」



(2014.07.06)(なんでもありワールド開幕。主に裏部屋ネタ)
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