Twitter Log(言論×とうらぶ)


「……やっぱ帰っていいかな?」
「帰れるなら僕もそうしたいんだけどね、あのはた迷惑な意識集合体がそれを許すと思う?」
「思わない……」

がくりと項垂れる私の肩を慰めるようにぽんぽんと叩いたシンク。
こぼれそうになったため息をぐっと飲み込み、目の前にそびえ立つ古めかしく重苦しい観音開きの扉を見て覚悟を決めた。

ことの発端は預言離れが終わったオールドラントで仕事に忙殺されながらも平和な毎日を送っていた私とシンクにローレライがコンタクトをとってきたことだ。
曰く、別次元で歴史修正主義なる生き物達が過去への攻撃を繰り返していて、それがオールドラントにも影響を及ぼしそうなんだとか。
それを憂いたローレライは他の意識集合体の力も借りて、歴史修正主義の反勢力である時の政府に接触し協力の約束を取り付けたという。

そこまではいい。問題なのは協力の約束とやらに私とシンクも含まれていることだ。
いつの間にか、私達の許可無く、異世界に行くことが決まっていた。
それを聞いたときは正に堪忍袋の緒が切れて思わずもっかい地殻に埋めたろか!?と叫んだものだが強制的に送られてしまっては仕方がない。
終わらないと帰れないのならば終わらせるしかない。
ローレライと違って時の政府とやらから丁重な扱いを受けたし、ちゃんと説明もしてくれた。
なのでいくつか条件を付けた上で、私は時の政府と契約を交わした。

と言うわけで、現在私は俗に言うブラック本丸と呼ばれていた本丸を訪れている。

マニュアル仕事が得意なお役所さんはこういった個々のパターンに臨機応変に対応しなきゃいけない案件が大層苦手ならしく、また運営できる程度に回復させてほしいというのがあちらさんの希望だった。
それしか無いのならと引き受けたものの、あまりにもおどろおどろしい雰囲気に思わず帰りたくなったのはご愛嬌だ。
シンクと合図をし終わった後、本丸に通じる扉を開く。
そこには軽傷重傷問わず怪我を負いながらも刀を構えた刀剣男士達が殺気立った様子で待ち構えていた。
……帰りてぇ。

「誰だ、アンタ。新しい審神者か」
「いいえ、政府側の人間です」

そう言い切った途端、ぶわ、と膨れ上がる殺気。
シンクが足を半歩開き、私を庇うようにして立った。
私はといえばとりあえずその場にいる全員をぐるりと見渡したあと、まあ範囲的には問題ないかと判断してローレライの剣を呼び出す。
突如現れた見慣れない武器に刀剣男士達の警戒が膨らむのが解った。

が、いちいち気にしてなどいられない。
私は剣を地面に突き立て、範囲を見定めた後詠唱のためにすっと息を吸い込む。

『慈悲深き女神の旋律は全てを等しく癒すだろう。
響き渡れーーリザレクション』

途端、刀剣男士達を中心として光の円が波のように幾度となくさざめいた。
最初こそ驚きとびのこうとしたようだが、次々に怪我が塞がっていくのに気付いた刀剣男士達は皆剣を下ろし自らの体を見下ろして呆然としている。

本来ならばユリアの譜歌であるそれはもちろん譜歌として歌ってもいいのだが、あいにくと私が人前で歌う趣味がないためにただの譜術化していた。
が、相変わらず詠唱ってのはこっぱずかしい。
羞恥心を押し殺し改めて刀剣男士達を見渡せばまだ軽傷者は居る者の重傷者は居なくなったようだ。
それを確認した私はローレライの剣を地面から引っこ抜き、また音素へと還元して身体に戻す。
コンタミネーションはできるようになれば便利である。習得するまでが大変だったが。

「さて、まだ怪我人はいますか?」

腰に手を当てて、呆然としている彼らを見れば浅葱色の髪をした青年が一歩前に出てきた。
水色の髪とか凄いなーとか思ったけど、私の旦那髪緑だった。
人のこと言えなかった。

「……来訪の目的を聞かせていただけますか?」
「時の政府より本丸の再建を依頼されまして。
ああ、そういえばまだ自己紹介すらしていませんでしたね。
私は論師ルビア、彼はシンク。
ローレライ教団に所属しているしがない夫婦です。今年で21になります」

よろしくお願いしますと頭を下げれば、新婚なんだよこれでも、とシンクがぼそっと呟いた。
そうだね。ローレライに飛ばされちゃったからそれどころじゃなくなったけどね。

「あ、それじゃあこれってある意味新婚旅行になるのかな?」

思わずそう呟いた私にシンクにこんな新婚旅行ヤダよと言われてしまった。私だって嫌だわ。
やいのやいのと言い始めた私とシンクに、水色の髪をした彼は何とも言えない表情を浮かべるしかなくなるのだった。


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