Twitter Log(彼シャツ(言論))



ふむ、とひとりごちる。
目の前の3人掛けのソファでは、横になったシンクが上着を脱いでぐうぐうと眠っていた。
会議から帰ってきた途端シンクの寝顔がお出迎えとは、果たして豪華なお出迎えと思うべきか仕事をしろと怒るべきか、少しばかり悩んでしまうところである。
そこでふと背もたれにかけられている黒いアウターに目がいった。
黒と緑を基調にした六神将の衣装であるそれは、複雑そうな見た目に反して丈の短いスリーブレスジャケットにアームウォーマーが着いただけとシンプルな衣装だったりする。
そこに黄色の紐をまいたり、袖をまくったり、よく解らないお札を胸元につけたり、ロングコート風のひらひら?をつけたりしているせいでおかしく見えるのである。

今思うとあれって必要なのか。戦闘に関してはど素人の私だが、はたから見たら邪魔なだけな気がするのだが。
そんなことを考えつつシンクを見れば、現在シンクが身につけているのはインナーとふくらはぎが覗くズボンだけ。
そこからちょっと好奇心が頭をもたげて、私は音を立てないよう気をつけながらシンクへと歩み寄った。
そっとシンクのアウターを手に取る。
思ったより厚手の生地は随分と丈夫そうで、私が普段から着ている肌触りと光沢重視の衣装とは大違いだ。
音叉の杖をソファに立てかけたあと、ドアがきっちりしまってることを確認してから静かに自分の上着を脱ぐ。
ノースリーブのワンピース姿になってから、少しだけドキドキしている自分に気づかないふりをしてシンクのアウターに袖を通した。
ロングコート風になっているせいで、普段着ているワンピースもすっぽりと隠れてしまう。
普段着慣れない色合いにわずかに心が躍ったのは否定しない。
前を止めないままその場でくるりと回って見れば、下手なワンピースよりもたっぷりと布地を使っている黒いコートが遠心力に従ってふわりと広がった。
そのせいでソファに立てかけていた音叉の杖が音を立てて倒れなければ、きっと完璧だったに違いない。

「……何してるの?」
「お、おはようシンク」

ほとんどタイムラグがないままむくりと起き上がったシンクは、少しだけ眠たげな顔をしつつもはっきりとした声でそう問いかけてきた。
流石にちょっと着てみたかった、とは恥ずかしくて言えなかったから、挨拶をして誤魔化せないかと抵抗を試みる。
しかしそこは流石に私の元で育ってきた?だけあるということか。
シンクはあくびをかみ殺しつつおはよう、ごめん寝てたと答えながら、それで僕の上着で何してるのと追及の手を休めることはなかった。

「その……ちょっと、着てみたくて」
「ふぅん……で、着てみた感想は?」
「えっと、その……おっきい、ね?」

無意識のうちに胸元を隠しながら言えば、シンクは無言で私を見つめたあと片手で顔を覆い天を仰いだ。
予想外の反応に困ったものの、怒っているのかと顔色を伺えば上着返してと短く言われる。
なので慌ててアウターを脱いでシンクに渡せば、シンクはため息をつきながらアウターに袖を通していった。
やっぱり怒ってるんだろうか?

「その……ごめんね?」
「別に怒ってるわけじゃないから」

そう言ったシンクはなぜか仮面までつける。
2人だけなんだから良いじゃないかと言ったが、今日はそんな気分なんだと押し通されてしまった。
まぁそういう気分だというならば仕方ないかと、諦めた私は自分の上着を羽織って執務机へと向かう。

さて、シンクも堪能したしそろそろ仕事に戻ろうか。
自分に言い聞かせるようにそういえば、何故かシンクが思い切りずっこけていた。
1人漫才?と言って怒られたが、私は何も悪くないと思うということをここに記しておくこととする。


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