身から出た錆(身から出た錆03)


「さて、アリエッタ。報告を」

アニスを連行させる原因となったルビアが、場を仕切りなおすように口を出す。
アニスが連れて行かれたのはお前のせいだといわんばかりにティア達が思い切り睨みつけていたが、それはやはり綺麗にスルーされた。

「はい。ルビア様の推察通り、パダミヤ大陸に、エルドラントに繋がっていると思われる譜陣を多数発見しました。
検証はしてませんが、神託の盾兵が往復しているのを確認したので間違いないと思う、です。
一応他の大陸にも譜陣が無いか、お友達に頼んで確認してもらってます。
そちらも結果が出次第報告します。報告は以上、です」

たどたどしいながらもはっきりと告げられたその言葉に、ルビアは満足そうに頷いた。
これでエルドラントへの足がかりを得たも同然であり、障気中和への問題がまた一つ片付いたのだ。
ルビアは国王達に向き直ると、その場ではっきりと宣言した。

「アリエッタの発見した譜陣を用いてエルドラントに精鋭部隊を突入させることを提案します。
恐らくヴァンは譜陣が発見されたとは微塵も思っていないでしょう。
エルドラントに取り付けられた装備を見る限り、外からの侵入ばかりに気を取られているように見えます」

「奇襲作戦か。確かに内部掃討後、障気中和の方が確実ではあるな」

「うむ。足がかりが得られた以上足踏みをしている暇も無い」

ルビアの提案に国王達は深く頷いた。
しかしそこに再度待ったをかけるジェイド。
何事かと視線を受けながら、ジェイドはそこまで時間はかけられないと言い出した。

「障気中毒患者は日に日に増えています。多少危険でも障気中和を優先すべきです」

それは確かにそうだが、失敗したらどうする気なのか。
多分それはその場に居る殆どの人間が思い描いた感想だろう。
そもそも障気中和は何度も挑めるものではない、チャンスは一度きりだ。
ジェイドの言うことも一理あるが、多少遅れても確実性を取るべきである。
だからこそルビアはジェイド達に命運を託すのではなく、精鋭部隊の突入を提案したというのに、彼は解っていないようだ。
ルビアはまるで見当違いのことを言っている子供を見るように生ぬるい視線をジェイドに送ると、あらあらと口を開いた。

「まさか大佐からそのような言葉を聞くとは思いませんでした」

「私が世界の破滅を望んでいるとでも?」

「いいえ?タルタロスが襲撃され全滅したことを報告もせず、セントビナーで兵を補充するわけでもなかった大佐です。
病弱な導師や公爵子息であるルーク様に徒歩移動を強いて、かつキムラスカから街道の使用許可が出てもマルクトに連絡をとらなかった大佐殿ですよ?

アクゼリュスに向かっている最中も徒歩移動を続け、導師を奪還するために砂漠で寄り道をし、病弱な導師が同行したいと言ったことを親善大使であるルーク様よりも前に許可を出した大佐。
そして更にまた徒歩移動でゆっくりアクゼリュスに向かった大佐?

そんなにゆっくりとアクゼリュスに向かったのです、今回ももっとゆっくりでも良いだろうと言われると思っておりました」

悪意をふんだんに練りこみ、わざとらしいほどに嫌味を込めた言葉。
明らかになる事実にピオニーの顔が驚愕から憤怒へと切り替わるのに時間はかからなかった。
しかしそれに気付いていないのか、ジェイドはやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。

「あの時とは状況が違います。妨害を避けるためには隠密に行動する必要がありました」

「その割にはフーブラス川ではアリエッタに、カイツールではアッシュに、連絡船の上ではディストに見つかっていたようですが?
要所要所を押さえてしまえばあっさりと見つかるのですから、馬車移動に切り替えてスピードを優先した方が良かったのでは?
まぁ商人を装うなどの変装もせずに隠密に行動と言われてもあまり説得力はありませんが」

その通りである。
ルビアの言葉に同意するのと同時にピオニーは後悔していた。
彼は連絡が全く無いのも、キムラスカが中々返事をしないからだと思っていた。
まさか名代に命じた人間の職務怠慢だと誰が思うだろうか。

「ジェイド、俺は言った筈だな?アクゼリュスには早急な助けが必要だと」

怒りの込められた言葉にジェイドはようやくピオニーが怒っていることを悟る。

「何故報告を怠った?何故徒歩を選択し続けた。何故キムラスカから許可が降りたことを連絡しなかった!」

「しかし結局アクゼリュスは崩落し…」

「お前が連絡の一つでも寄越せば救えた命もあると何故気付かん!!」

ピオニーの覇気がその場を満たす。
指摘されてようやく気付いたらしいジェイドは視線を逸らし、何とかその怒りから逃れようとする。
しかしそれはピオニーを落胆させるだけでしかない。

「…俺はお前を過大評価しすぎたようだな。多少扱いづらいところはあると解っていたつもりだったが、ここまで馬鹿だとは思わなかった」

結果、当然のように失望したピオニーにジェイドは驚きの表情を浮かべた。
何故驚くというのだろうか。失望されて当然のことをしでかした自覚がないと言うのか。

「あぁ、もしかして大佐は障気中毒にかかったアクゼリュスの住民など助ける価値もないという事でわざとゆっくり行かれたのですか?
確かに障気中毒になった患者の救助費用などは多くかかりますし、例え重症でなくとも仕事を亡くした人間が溢れるわけですから、効率を優先する大佐がわざわざゆっくり行くのも納得できます。
ゆっくり行けば重症患者や失業者も減りますし。

確かに今回はそこまで重症者が出ていません。
だから早く障気を何とかすべきだというのですね」

ようやく解ったと手を合わせて言うルビアの言葉は、無邪気な言い様に反して悪意に塗れていた。
しかしジェイドならば考えそうなことだと何人かが納得の声を上げてしまうほどに、冷徹ながらも筋の通った考え方でもある。

「…どうなんだ、ジェイド。そんな風に考えていたのか」

「まさか!私は…」

口ごもり視線をそらすジェイドに、ピオニーは深いため息を漏らした。
ルビアはきょとんとした顔をすると、違うのですか?とジェイドに問いかける。

「もしやキムラスカとの戦争を望んでいたのですか?
あ、だからキムラスカの公爵子息であるルーク様に前衛を強要し、人殺しをしろと責め、ずっと不敬を繰り返していたのですね?
誘拐されたルーク様を不法入国で連行し、和平の詳細を話して協力してくれないならば監禁すると脅したのも、戦争を誘発させるためだったのでしょう?」

新たに判明した罪状に今度こそピオニーは頭を抱えた。
ルビアは明らかにジェイドを排そうとしている。ジェイドが実際にそんな事を考えていたかどうかなどどうでも良いのだ。
解ってはいるものの、ローレライからの使者である彼女を無理矢理止められる筈も無い。

「闘える力を持ってる人間が闘うのは当然でしょう!?」

ティアが見当違いな反論をするが、テオドーロに一喝されて渋々黙った。
最も、元々ルビアはティアの言葉など気にもかけていないが。

「ルークよ、論師の言っていることは事実か?」

「え?あ、はい…確かに、軟禁しなければならないとか、色々言われました」

「ルーク!貴方変わるんじゃなかったの!?」

「いや、でも…」

インゴベルトの問いかけに素直に答えルークはティアに責められ、口ごもる。
しかしルビアはルークに微笑みかけ、シンク、と名前を呼んだ。
途端、ルビアに命じられたシンクが素早く動き、ティアを思い切り地面に叩きつける。

「ティア!?」

「何をするのです!」

「ルーク様、国王陛下の問いに答えないという選択肢はありません。
彼女のことは気にせず、そのまま答えてくださって良いのですよ」

「あ…で、でも…ティアが…」

「陛下は彼女に発言の許可を与えていません。一兵卒である彼女は本来膝をついて頭をたれ、許可を与えられて初めて顔を上げることができる身分です。気にかける必要はありません。
それに彼女のヒステリックな声はいい加減不愉快です。見当違いはなはだしい弁舌は聞き飽きました」

咽こんでいるティアを押さえつけるシンクに許可を出し、シンクは再度ルビアの元へ戻る。
ナタリア達がルビアを睨んでいたが、しかしそれすらも無視してインゴベルトに謝罪をした。
インゴベルトは手を上げる事で構わないということを告げると、再度ルークに問いかける。

「して、ルークよ。論師の言葉に間違いは無いのだな?」

「はい。間違いありません。俺は…私は、そこで初めて人を殺しました。忘れたくても忘れられないことでしたから…」

沈痛な面持ちで告げられた言葉にインゴベルトは大きなため息をついた。
そしてピオニーへと視線をやれば、ピオニーは申し訳ないと頭を下げる。

「詠師トリトハイムよ、すまないがジェイドを拘束してくれないか。
マルクト兵が引き取るまで牢にでも入れておいて欲しい」

「畏まりました。衛兵、カーティス大佐を譜術封じの牢に連れて行け」

トリトハイムに命じられ、衛兵たちがジェイドを取り囲み素早く拘束する。
ジェイドは最初こそ抵抗したが、ピオニーに一喝されて諦め、そのまま大人しく牢屋へと連行されていった。



疑おうと思えばいくらでも疑えるジェイド。一般常識的に見たら勘繰られまくるんじゃないかなって思って論師にぐだぐだ言ってもらいました。
にしても人数多すぎて必ず喋らない人間が居ます、ティアは勝手に喋ってくれるんだけどね。
文才が欲しいorz


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