泥に沈むことを選んだのはボクでした(X)
「無事、殺せたようだな。死体はどうした」
「燃やした」
「その仮面はどうした」
「秘奥義習得祝いだってさ。譜陣刻んであるし、使えそうだから貰ってきた」
「そうか」
ルビアを殺したボクはその死体を燃やして埋葬した後、胸にぽっかりと空いた穴を抱えて、ダアトへと戻ってきていた。
ヴァンは約束どおり報告したボクを味方へと迎え入れ、そしてボクを第五師団師団長の座につけた。ルビアは退団届が出ていたということで処理され、その死は隠匿された。
こんな子供が上司になることに反発があるかと思ったが、そんなことはなかった。ヴァンの推薦であるということと、修行中ルビアにくっついていたのが良かったらしい。
どうも引継ぎのための師団長候補を育てていると、師団の連中は認識していたようなのだ。話を聞く限り、ルビアもまたそう思わせるよう振舞っていたようだった。
そして引継ぎの最中に副師団長から渡されたのは、ルビアからだという師団長就任祝い。
詰襟タイプの上着は緑の縁取りがついている。その下に着るのはワンピースではないがやはり背面の丈が長いコートのようなもので。
仮面と同じみょうちくりんなデザインにはんっと鼻で笑ってしまった。
やはり解っていたのだろう。ルビアは、ボクに殺されるのを理解したうえであの小屋に向かったのだ。
しかも就任祝いとして寄越した団服のデザインはルビアが着ていたものに酷似しているのがまたむかつく。
しかし背面に布をたっぷりと使っていると戦闘中に翻って敵を翻弄できる上に、此方の動きを予想できないよう視界を阻害する効果があるのをボクはもう知っている。
詰襟のついたアウターは、スピードを阻害しない最低限の防具だということも知っている。
前が開いているのは足技を邪魔しないためだということも知っている。あととっても癪だけれど、スパッツが予想以上に動きやすい衣服だということも。
だから仕方ないので、就任祝いだという団服に袖を通してやる。
全団長とおそろいですね、なんていいながら涙ぐむ副師団長は殴っておいた。
この後ボクは六神将の一角として、また参謀総長として神託の盾の中で烈風の二つ名を持つことになる。
それでも神速と謳われたルビアに敵うことはないのだろう。そしてこの空っぽの心が埋まることはないのだろう。
これからもきっと、ずっと。
ボクが死んで、君の元へと向かうまで。
泥に沈むことを選んだのはボクでした
2018/1/31
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