参謀総長のご飯事情(あとは消えるだけの話。)


空に立ち昇る淡い光の塊に、綺麗だな、と場違いに思った。敗北という解りきった結末と終焉に、少しだけ安堵する。
最早痛みすら感じないほど消耗した身体はぴくりとも動かず、時折痙攣するだけの死を待つ肉塊と化している。
内臓が傷ついているのだろう。ごふりとむせたかと思うと、口の中が血の味でいっぱいになる。美味しくない。

段々と思考力が低下していく中、思い出すのはルビアのことだ。
泣いてしまうだろうか。もう泣かせたくなかったのに。
泣き顔ばかりがちらついたが、玉子焼きを食べさせた時のことを思い出しふっと肩の力を抜く。

きっとルビアと一緒にいたら、誰かと一緒に食べるシアワセを知れたのだろうな、と思う。
その選択肢を潰したのは自分だし後悔はしていないけれど、それでも一度くらいは味わってみたかった。

目を閉じて瞼の裏に浮かぶのは、守れなかった約束の風景だ。
雑木林の中、丁度いい切り株がある場所を知っているから、お互い腰掛けて弁当を交換するのだ。
美味しいと言っていた玉子焼きは絶対に入れるつもりだった。

ルビアは何を入れてきてくれるだろう。
今まで食べた彼女の料理が浮かんでは消えていくが、一つだけ確信がある。
ルビアが作ったものなら、絶対に『美味しい』に決まっている、ということだ。
多少失敗していたって構わない。
ルビアが僕のためだけに作ってくれたというだけで、僕の胸はいっぱいになるのだから。

そこまで考えて、僕はようやく理解した。
瞼の裏に浮かぶ少し照れたようなルビアの笑顔に、動かなかった筈の頬が僅かに緩んだ気配。

きっと、これが『幸せ』ということなのだろう。


終わり。


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