誕生日を祝ってもらうことに慣れていない。
誕生日を迎えても嬉しいと感じたことはないし、どうということもなかった。
誕生日当日、何も感じていないような僕の顔を見て、明るい顔で僕の誕生日を祝う志朗は、いつもぽかん、とする。そうしてそのあと、必ずといっていいほどこう付け足す。
「瑞樹くんに出逢えて、オレ嬉しいよ」
そう。ありがとう、と。
毎年、そう言って笑っているような気がする。
「なー、そろそろじゃね?瑞樹の誕生日」
「あぁ、そうだ。そろそろだ」
「うわぁ、もう一月も終わりかぁ。新年明けてから瑞樹くんの誕生日まで早いなーっ!」
「ねぇ、今年で何歳になるの?瑞樹」
「アイドルに年齢は聞くもんじゃないよ、湊」
ロケバスの中で収録待機中に、珍しく陣が口火を切った。
僕の誕生日なんて弄ってほしくない話題なのに。
陣は分かってやっているのかもしれない。
「ね、ね、みんなでお祝いしよう!瑞樹くんの誕生日!」
「やめてよ。そんなおおごとにしないでいいから。普段通り仕事しよう」
「えー?なんでー!」
「誕生日ってのは、生まれてきてくれて、俺たちと出逢ってくれてありがとうって。俺たちが瑞樹に感謝する1日だ」
亮介の言葉に、僕はどうリアクションしていいかわからずに。
ただ「そうなの」とだけ、気の無い返事をした。
ロケバスの隣の席に座る亮介は、そんな僕を見て、「そうなんだ」と笑った。
『生まれてきてくれてありがとう』
『俺たちと出逢ってくれてありがとう』
そんなの、僕だって思ってる。
亮介、志朗、陣、湊。
生まれてきてくれて、ありがとう。
僕と出逢ってくれて、ありがとう。
「…誕生日、お祝いしてもらうのも…悪くないかも」
「お!珍しく積極的になったな。じゃあアレやろうぜ、アレ!シャンパンあけてシャンパンタワー!みたいな!」
「それはおまえが瑞樹の誕生日にかこつけてどんちゃん騒ぎしたいだけだろ」
「なっちゃんに言ってシャンパンも用意してもらってさ!誕生日ケーキも用意してもらって!みんなでお祝いしよう!」
「そうしよ!瑞樹の誕生日会!!しよう!!」
僕の一言で、他全員が盛り上がる。
誕生日会、だなんて。
僕らしくもないけれど、1月21日、その日だけは。
僕が生まれてきたことを、生きてきたことを、お祝いしてもらっても、いいのかもしれない。
「たまにはいいかもしれない、じゃないぞ。瑞樹」
「………」
「もっと祝ってもらって当たり前って顔。してみろ」
耳元で、亮介が囁く。
その囁きに、どうすべきか、少しの間思考に空白が出来た。
しかし、その数秒後には、僕は、亮介の望む僕になった。肩の力を抜いて、観念したように笑う。
「誕生日会。僕を楽しませてよ?」
そう言って笑うと、前の座席に座っていた志朗と湊が、勢い振り返った。
そうして、「任せて!!盛り上げる!!」「スーパー特別な日にしよ!!」だとか、口々に言って。
盛り上がっている。
その様子を見て、陣は「やべぇ、プレゼントなんも用意してねぇ」だなんて。
「プレゼントなんていいよ、僕を楽しませてくれれば」
「ということだ。明日1日は、瑞樹はバースデーの王様だぞ」
ロケバスの中で急遽決まった、僕の誕生日会。
少し気恥ずかしいけれど。
それでも、ようやく感じた。
誕生日って、ちょっと、嬉しい1日なんだって。
「誕生日、ありがとう」
「なんだそりゃ。そんな返し、聞いたことねぇ」
僕の言葉に、一番後ろの座席でくつろぐ陣が、少しだけ肩を揺らして笑う。
「瑞樹くん、お誕生日おめでとう!」
「バカ、1日フライングだ志朗」
「イェーー!ハッピーバースデー!!」
亮介、陣、志朗、湊。
僕は、みんなに出会えてよかった。
一緒に育ってきてよかった。
生まれてきて、よかった。
…HAPPY BIRTHDAY.
(……to me.)
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