一歩も進まない


十一日。前回は、俺のところに名前がやって来てたけど、今度は俺が朝から名前の家にお邪魔することにした。


「原因がわからんと何も対策とか出来へんな〜」

「そうやね……思い出せたらええんやけど」

「んー、ちょっとさ、十五日のこと思い出してくれへん?」

「えっ?」

「その、死んだ時の記憶やなくていい。朝起きて、覚えてる時まででいいし、辛かったら話さんでええから」


名前は一瞬だけ固まったが、わかった、と言ってゆっくりと話し始めた。



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朝起きて、その日は快晴やった。カーテンから差し込む光が眩しい。東側に窓があるせいで、夏の朝は日差しが厳しいのだ。もう随分と明るくなっているようだった。時計を見ると、九時半。早起きとも寝坊とも取れない時間に思えるのは、大学生活が始まって、あまり早起きというものをしなくなったからかなぁ。
体を起こして、グッとその場で伸びをする。クーラーをいつの間にか消していたらしい、汗だくで寝覚めは良いものやなかった。

シャワーを浴びて、おかんが作ってくれていた朝ごはんを食べた。情報番組をてきとーに見ながら、日課となったヨーグルトを飲む。あの有名グループが解散ということで、どの番組もこぞってそのニュースばかりを取り上げていた。私はそのグループを昔から知っていたし、みんなが当たり前のように知っているものが無くなってしまうということに実感がわかんかった。なんかのドッキリかなって最初は思ったっけ……。

昼ごはん食べて、友達と遊びに出かけた。その日、夜に花火大会があったから、一緒に出かけようなって話してたから。だったら、一日中遊んじゃお!と出掛けることにした。そんで、ショッピングセンターとか行って、アクセサリー見たり、服とか水着見たり、アイス食べたり、普通の一日を過ごした。

夕方。お祭りやからって、移動することになった。まだ明るい空の下で、祭囃子の音が聞こえる。軽快で楽しそうな音楽はこっちの気分まで高める。

せや、お祭りやったなぁ……。


────



バイトがあるからって、結局夕方には名前と別れて、電車に揺られる。今日マルもおるんやっけ。暇やといいなぁ。

うちのバイト先は昼はカフェだけど、夜はバーみたいな感じになる。チェーン店やけど、ちょっと洒落てる感じ。


「大倉! おはよー!」

「はよぉ。昨日はごめんな」

「ええよー。むしろ今日いろいろ持ってきたから!」

「えっ……」


マルに渡された袋の中を見ると、それらしき名前がついたDVDや本が入っていた。まあ、でも、なんか参考になるかもしれんし、一応帰ったら見るか。


「じゃあ、今日もがんばろー!」

「マルは元気やなぁ」



バイトが終わって、家に帰って、家族が寝静まった頃に、リビングでDVDを観ることにした。主人公が女の人を助けるために同じ日を何回も繰り返す映画。冴えない男やけど、憧れの女の人の死を回避するために翻弄する感じ。あー今の状況と似てるなぁ。俺の場合は幼馴染だけど。
記憶を持ったままループして、そのループの中でいろいろなことを試して女の人を救おうとする。なかなかどうしようもない男やけど、好きな人のためにってなら頑張れるんやなぁ。
──好き、か。

見終わったあとはちょっとの疑問もありながらも、まあまあ面白かった。でも、結局俺たちの状況とは全然違う。主人公が死ぬ人を助けるためってのが映画やったけど、俺たちの場合は名前が死んでループする。つまり、ループの目的が不明。


「あー……どうしたもんやろ」


名前が死んでループする理由もわからん。映画のような何かしらの機械が関わっとるわけでもない。


「せや、お祭りって……」


名前はお祭りだったと言っていた。つまり、名前はあの神社にいたっちゅーこと? 確か、俺も前回の十五日、ほんとはヤス、亮ちゃん、マルと一緒に夕方からお祭りに行く予定やった。
……もしかしたら、同じ現場にいた? もしかしたら、俺の眼の前で名前が死んだ可能性がある? ループの原因は祭り?
だったら、その記憶があるかもしれへんけど、生憎そんなもの全く覚えがない。それはそうや、俺は名前からしたら10回目の俺なんやから。


「……俺は俺なんかな?」


ループの世界は名前が死んだら、同じように世界も死んで、新たな世界が九日からスタートするのかな。それとも、パラレフワールドなのか。


「……わからん、寝よ」


結局考えたところで何も分からなくて、ソファに寝っころがって眠りについた。

朝、エアコンつけっぱなしでリビングで寝ていたのがおかんに見つかって、めっちゃ怒られた。