07

アメリカには飛行機で向かった
勿論あのメイド服を着たままで
「俺ん家の飛行機なんだぞ!すごいだろ!!」
自慢気に話すアメリカに「そうだな」と、適当に返事をして、窓際の席に座ったら何故かアメリカが隣の席にボフンと勢い良く座ってきた
何故来たと、ジトッと睨んだら「危ない奴を監視するのは当たり前だろ?」と笑顔で答えられたのでまぁ戦争してたしな、と思いフイッと窓越しに景色を見た
この気まずい雰囲気の中「俺ん家まで結構掛かるから楽にしてくれていいんだぞ」と言われたが「監視するなんて言われた後にくつろげる奴が何処に居るのか」なんて皮肉を返し、再び沈黙が広がる

飛行機から見えるのは所々にある白い雲と真っ青な海だった
まるで何時も見上げている空を見下ろしている様だ
チラと周りを見ても雲と海しかない事に日本から離れたんだと改めて寂しさが溢れるのと同時にこの景色を国民達も見ていたのか…となんとも言えない感情に浸る
この景色を見て何を考えていたのだろうか、今大空を飛んでいるといった希望か、或いはもう家族に会えないといった絶望か…まぁ後者なのだろうが…
案外落ち着いていたのかもしれないと、御国の為にと自らの命を捨てていった若者達に想いを馳せていた。いくら自分の為だからと言ってもやはり、国民が死んでいくのは悲しい事だ
だから戦争が終わって日本が負けたが、もう犠牲は増えない
そう考えると良かったと、安堵する自分を随分と楽天家になったものだと鼻で嗤う
「さっきからよく顔が変わるね」
何か面白いものでもあったのかい?と、アメリカに問われてピキリと顔が凍る
よく顔に感情が出るらしく上司には常にポーカーフェイスにしろと、怒られたものだ
でももうそんな事も気にしなくて良いのかと思うと心が軽くなった
「戦争が終わって良かったな…と」
そんな心情とは反対にぶきっぽうに返すとoh!と声を挙げ
「君が負けたのに?意外なんだぞ!」
と、呑気に答えた
そりゃまぁ勝ちか負けるかなんて言われたら勝った方が嬉しいが…と思っていたら次の瞬間思わぬ事を言われた
「君って戦争好きだろ?負けたのに良いのかい?」
ちょっと待て
それは何処からの情報だ
確かに戦争はしてきたがあれは全部上司が決めてきた物だし私はどちらかと言うと平和主義者なはずだ
流石に自国民を傷付けてまで繁栄は望んでなかったし、戦争が始まったら御国様の為になんて笑顔で戦場へ行く国民に心の中で何度土下座したか…
結構なトラウマである
「戦争は上司が勝手に決めてきた事だからな…
誰が好んで国民を傷付けるか」
なんて吐き捨てたら
「そうなのかい!てっきり君は戦争が好きなのかと思っていたよ」
なんて言ってきた
えっ、私って周りからはそう思われてるの…とショックを受ける
道理でいろんな国がびくびくしてたわけだと、察して猛烈に謝りたい気分
そんな私にお構い無くアメリカは
「それにしても君ん家の上司は相談も無しに勝手に決めるのかい?」
酷い奴だななんて呟く
そう言えばあの上司私には男になれとか言ってたのに戦争の事に口を出そうとすると、途端に女扱いしやがって…
フツフツと怒りが出てくると何を思ったのか「ご、ゴメン」なんて謝ってきた
いきなりどうした
「君の事勝手に勘違いしてて…」
いい方向に勘違いしてくれていた
此方も「此方こそ気を遣わせてすまない」と謝ると、
「やっぱり君は日本の弟なんだな!今のも彼にそっくりだ!」
なんて言われた
弟として、というのは少し複雑だが、素直に「嬉しい」と微笑み返すとやけに慌てて視線をそらされた
おっと、今は男だったか
つい何時もの口調になってしまっていた
そりゃ気色悪いなと、感じて「すまない」と謝ったが、焦っていた為か声が上擦った
ちゃんと仕事しろ、私の声帯
そしたらいきなり肩を掴まれて
「い、いや!さっきのしゃべり方でいいんだぞ!」
なんて言ってきた
その前に近い近い近い!
もう少しで額がくっつきそうな距離だ
男を心掛けているとはいえ流石に心は恥じらう乙女のつもりだ
いきなりの事に顔が紅潮していくのが自分でも分かる
その事に気づいたアメリカが再び「ゴメン!!」と言って慌てて離れる
「い、いや、急に近づかれたものだから…」
ゴニョゴニョと言い訳をしていたらHAHAHAとなんとも豪快に笑い「日本にはスキンシップがないからな!」と言葉を被せてきて、
「それよりも、さっきのしゃべり方にしてくれよ!
拒否権は認めないんだぞ!」 
なんて言われ「あぁ」と言いそうなのを「うん」と言い直したら頭をワシャワシャと撫でられた
解せぬ
とまぁ、飛行機の中で初めての命令が出た

後日、兄さんに手紙でその事を送ったら、今すぐ止めなさいとお叱りを受けた
そして口調を直したら次はアメリカに怒られた

…解せぬ