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白い町…フレバンス王国。
「白い町…」
隣国から隔離されたこの町に入ったのはついさっき。私は前世に学んだ暗殺術を使ってこの町に入った。周りの建物は白く正しく白い町。
私と然程変わらない子達の肌には白い斑点。
確か「珀鉛病」と呼ばれるもの。その正体はこの町の地層から掘れる鉛による影響。世代を経ることによりその毒は寿命を縮めていく。
ーこの毒ばかりは接種したくないな…。
そう思いながら癖で足音を立てずに町を歩けば、目当ての病院を見つけた。
この国一の名医であるトラファルガー医師のいる病院。
私は正門から中へ入る。
そんな時こちらを見る少年がいた。
その少年はアザラシ模様の帽子を目元まで被り、手にはメスを持っていた。
「こんにちは」
「お前…外から来たのか?」
少年は信じられないというようにこちらを見てくる。
それほどここは完全に隔離された町なのだろう。
「…トラファルガー医師はここにいます?」
「…父様に用?」
少年の言葉にコクリと頷く。父から渡されたこの手紙をトラファルガー医師に届けるのが今回私の任務。少年は私の前を歩き案内してくれる。
「俺はトラファルガー・ロー」
「私はシャル」
「シャルか!よろしくな!」
その後ローは色んなことを話してくれた。
トラファルガー医師に憧れており、自分も医師になるのだとか、誰も治すことのできない病気を治すのだとか…。
「シャルは何になりたいんだ?」
「…さぁ?考えたことない…けど私は自由に生きる」
そう言うとローはそうか!とニッと笑ってくれた。
そしてどうやら着いたようで一つの扉を叩き、「父様!」と声をかけている。
「おやおや…君は見ない顔だね」
「…父よりこの手紙をトラファルガー医師に渡すように」
そう言って鞄に入っていた手紙を渡す。
トラファルガー医師は手紙をサッと開け中身を確認する。
そして驚愕の目で私を見る。
「…貴方は素晴らしい医師だ。父は珀鉛病に詳しい貴方に私たちの元に来てほしいと…」
「君は一体…?」
「…私のことは良い、貴方一人だけならばこの町から脱出する手立てがある」
「…妻や子は」
「一人だけ」
そう言えばトラファルガー医師は息子であるローを見る。
ローは私とトラファルガー医師を交互に見、困惑しているようだ。
できたらこの町すべての人を脱出させたいのは私にもある。だがまだこんな小さい私にはそんな力もない。父自体も町の人々をすべてかくまい、ましてや漸く病気から救う手立てを見つけたかもしなれない状態なのだ。
だからせめて珀鉛病に知識のある医師であるトラファルガー医師を私に脱出させようということなのだ。
「…時間はありません。
この町のものでない私の存在がばれれば父も危険な目に遭います…」
いきなりきてこんなことを言うのは酷だということは重々承知だ。
だがそれでも私にも時間がない。
トラファルガー医師は頭を悩ませていたがローが「父様」と呟いた声に顔を上げ、何か決めたような瞳をこちらに向ける。
「私は行かない…私の娘もこの珀鉛病に苦しんでいる…今は離れられない」
その言葉を聞いて私がこの町にいる理由はなくなった。
「私は行かない…だがこの子ローを連れていってくれないか?」
「「!!?」」
トラファルガー医師はそう言って息子であるローの肩を叩いて笑う。
私はローを見る。
ローは驚きのあまり口をパクパクと魚のように動かす。
「…それはローの意思による。
ローが行きたいのならば連れていくが…」
「い、嫌だ!俺もここに残る!」
「ロー…お前は頭がいい、私より立派な医者になれる」
トラファルガー医師が説得を試みるがローの意思は変わらずだった。
そんな時私のでんでん虫が鳴く。
『シャルトラファルガー医師とは会えたか?』
「うん、でも残るって」
『そうか…ならば残念だが引き返して来い…こちらも危ない』
「分かった」
でんでん虫を切り、トラファルガー医師を見る。
「父の船が見つかり危険な状態になったとのことです。
私は戻ります…ローは貴方達と生きたいようなので連れていきません」
ローを見てそう言えば力強く頷くロー。
私は手をローに差し出す。
「ロー、私と友達になってくれる?」
そう言えばいきなりのことに驚愕を浮かべる。
「私、同じ年の友人いないの…ダメかしら?」
そう頭を傾げればブンブンと頭を振るロー。
そして手を握って「こちらこそ!」と笑ってくれる。
「では私はこれにて…生きてまた会えることを楽しみにしています」
トラファルガー医師の診察室の窓から身を乗り出し、風を身体に纏わせる。
そうすればふわりと身体は浮かび上がる。
驚きの顔でこちらを見るローに自分のビブルカードの切れ端を持たせる。
「それがあればまた会える」
そう言って私は父の待つ船に向かうためその身体を上空へ上げていく。
空から見るフレバンス王国はとても美しいが…なんだか悲しくなってきた。
きっと私はこの町が…白い町が赤く染まる現実を頭のどこかでわかっていたのだろう。