ルージュと赤い糸

「グレル先輩!」


笑顔で駆け寄って来る死神の後輩、マリア。
新人研修の時からアタシが担当してずっと一緒。

「今日のメイクいいじゃない?ま、アタシの方が綺麗だけどネ」


「グレル先輩に褒められたぁ!嬉しいです!」


「アンタ『です』じゃなくて『DEATH』ってテンション高く言いなさいって教えたじゃない。全くもうッ」


「すみません!次から気をつけます」



グレルは人差し指で、優しくマリアの頬をツンとする。



「もうウィルったら今日もサディスト全開で…堪らないワ…セバスちゃんもストイックだし…選べないワ!」
体をクネクネさせるグレル。


「先輩、恋する乙女って感じで可愛いですよ」


優しく微笑むマリア。


「あったり前じゃないの。アタシは乙女…素敵なレディヨ!」



グレルとマリアは笑う。



アタシは、マリアを可愛い後輩…妹分だと思ってた。



グレルはマリアにお揃いの赤いルージュを買った。


「グレル先輩、ありがとうございます!私、このルージュ大事にします!グレル先輩とお揃いなんて嬉しいDEATH!」
眩しい笑顔を見せるマリア。


「どういたしまして」
グレルはウインクする。

何だかちょっと可愛いと思っちゃって、対したリアクションが取れないアタシ。






休日は一緒にショッピングしてお揃いのムスクの香水を買ったり、仕事帰りは一緒に食事したりお酒を飲んで仕事の愚痴を言う。


「あの悪魔しつこくて大変でしたぁー」


「死人出過ぎでめんどくさいワね。毎日残業で寝るのが遅くて肌が荒れちゃうワ」
髪をサラっと靡かせるグレル。



仕事が大変でも、アンタが一緒だと、苦痛と思わない。
仕事終わりのこの時間が楽しみだから。



「グレル先輩の髪って本当に綺麗ですよね〜」
マリアはグレルの赤い長い髪に触れる。


「あったり前じゃないの。レディは髪もメイクも身だしなみも完璧じゃないとイケナイでショ?」






ある時、死神派遣協会の寮のグレルの部屋でマリアとグレルはお揃いのパジャマを着て、一緒にブライダル雑誌を眺めて居た。


「あ〜ん!白いウェディングドレスより真っ赤なウェディングドレスを着て華やかに挙式したいワ!」


「スピアーズ先輩とですか?」


「当たり前ヨ!ウィルと挙式出来るならアタシ死んでもいいワ」


クスクス…マリアは笑う。


「アンタ何よ?アタシじゃ無理って馬鹿にしてるワケ?」


「ち、違いますよ」
慌てふためいて手をブンブン振るマリア。







「グレル先輩と一緒だと嬉しいし、楽しいし、幸せだから自然といっぱい笑っちゃうんです」
マリアは笑顔で言った。







なんか…胸がチクりとすると言うか変な感じがした。

マリアの言葉にドキッとしたのネ。



アタシはアンタの事、可愛い後輩、妹分だと思ってたのに。



けど、アンタの笑顔とか言葉でその思いは簡単に崩れて行った…






ある日の朝


「おはようございます!グレルせんぱ…?!そ、その髪どうされたんですか!?」




男らしく髪をかきあげるグレル。


「心境の変化…ネ…」


グレルの長かった髪は、バッサリと顎のラインあたりまで切られて居た。








今はまだ言えない。
けど、アタシはアンタが好き。
もう後輩とか妹分じゃなくて一人の“オンナ”としてアンタを見ている。

髪をバッサリ切ったのに躊躇いは一切なかったワ。


前にアンタとしたガールズトーク。
「マリアってどんなオトコが好きなのヨ?」

「私は男らしい人がタイプです」





アタシ、アンタに似合う“オトコ”になりたい。





アンタのタイプの“男らしい人”になれるんだったら、アンタが綺麗だって褒めてくれた髪だって短くできるし、スッピンでも気が滅入らない。
ヒールも脱げるワ。




アタシ、男らしい“オトコ”になって、近いうちにアンタに告白するワ。




あのお揃いのルージュみたいな色の糸が、アンタとアタシの小指に結ばれていますように…





マリア、好きヨ。