カツカツカツカツ…ヒールの音。
“ヴィンセント・ファントムハイヴ”
“レイチェル・ファントムハイヴ”
そう刻印された墓に真っ赤な薔薇を手向ける一人の少女。
「お父様、お母様、ただいま戻りました」
いつもの朝。
朝食をとるシエルにセバスチャンは手紙の乗った銀の盆を出した。
「坊ちゃん、お手紙が届いております」
「分かった」
封筒を手に取ると、差出人の名を見てシエルは目を見開く。
封筒から便箋を取り出し、一通り読むとシエルは溜め息をつく。
「どうされました?坊ちゃん」
「皆集まっているから丁度いい。全員に話が…」
バタン!
リビングの扉が開く。
「シエル!お前が寂しがってると思って会いに来てやったぞ!」
「ソーマ!丁度いい、お前も座れ」
アグニが椅子を引き、ソーマは座った。
「改めて話す。近いうちに僕の姉さ…」
バン!
再びリビングの扉が勢いよく開く。
そこには、赤毛に蒼い瞳、真っ赤なドレスにヒールのとても高い靴を履いた少女が居た。
「シエル、じいや、お久しぶりね!あら?新顔も!」
シエルはオホンと、咳払いしこう言った。
「紹介する。僕の姉のマリア・ファントムハイヴだ」
「姉さんに、使用人達を紹介する。まず、シェフのバルドロイ」
シエルはマリアに使用人達を紹介していく。
「よろしくな!」
笑顔のバルド。
「ガードナーのフィニアン」
「よろしくお願いします」
笑顔のフィニ。
「ハウスメイドのメイリン」
「よ、よろしくお願いしますだ」
あたふたするメイリン。
「フットマンのスネーク」
「よろしくってエミリーが言ってる」
蛇を首に巻いてそう言った。
「俺はソーマ!シエルの親友であり兄のようなものだ!よろしくな!そして俺のカーンサマー、アグニだ!」
褐色の肌の華やかな王子は胸に手を当てて言った。
「よろしくお願い致します」
アグニは丁寧にお辞儀をした。
「私、坊ちゃんに仕えさせて頂いております、セバスチャン・ミカエリスと申します。どうぞよろしくお願い致します」
丁寧に自己紹介し、お辞儀するセバスチャン。
「みんなよろしくね!」マリアはドレスの裾を広げ、頭を下げた。
「シエル、後で大学の寮から私の荷物が届くから」
「分かった」
「じゃ、私出掛ける所があるからまた後でね」
急ぎ足で屋敷を後にしたマリア。
“アンジェリーナ・ダレス”
そう刻印された墓に真っ赤な薔薇を手向け、マリアはこう言った。
「ただいま。マダムレッド。遅れちゃってごめんね…」
そよ風が、優しくマリアを包んだ。