1/帰宅

カツカツカツカツ…ヒールの音。




“ヴィンセント・ファントムハイヴ”

“レイチェル・ファントムハイヴ”

そう刻印された墓に真っ赤な薔薇を手向ける一人の少女。










「お父様、お母様、ただいま戻りました」



いつもの朝。

朝食をとるシエルにセバスチャンは手紙の乗った銀の盆を出した。



「坊ちゃん、お手紙が届いております」


「分かった」




封筒を手に取ると、差出人の名を見てシエルは目を見開く。
封筒から便箋を取り出し、一通り読むとシエルは溜め息をつく。




「どうされました?坊ちゃん」


「皆集まっているから丁度いい。全員に話が…」




バタン!
リビングの扉が開く。





「シエル!お前が寂しがってると思って会いに来てやったぞ!」


「ソーマ!丁度いい、お前も座れ」



アグニが椅子を引き、ソーマは座った。




「改めて話す。近いうちに僕の姉さ…」



バン!

再びリビングの扉が勢いよく開く。




そこには、赤毛に蒼い瞳、真っ赤なドレスにヒールのとても高い靴を履いた少女が居た。




「シエル、じいや、お久しぶりね!あら?新顔も!」





シエルはオホンと、咳払いしこう言った。




「紹介する。僕の姉のマリア・ファントムハイヴだ」

「姉さんに、使用人達を紹介する。まず、シェフのバルドロイ」

シエルはマリアに使用人達を紹介していく。

「よろしくな!」
笑顔のバルド。



「ガードナーのフィニアン」


「よろしくお願いします」
笑顔のフィニ。



「ハウスメイドのメイリン」


「よ、よろしくお願いしますだ」
あたふたするメイリン。


「フットマンのスネーク」


「よろしくってエミリーが言ってる」
蛇を首に巻いてそう言った。





「俺はソーマ!シエルの親友であり兄のようなものだ!よろしくな!そして俺のカーンサマー、アグニだ!」


褐色の肌の華やかな王子は胸に手を当てて言った。



「よろしくお願い致します」

アグニは丁寧にお辞儀をした。







「私、坊ちゃんに仕えさせて頂いております、セバスチャン・ミカエリスと申します。どうぞよろしくお願い致します」


丁寧に自己紹介し、お辞儀するセバスチャン。




「みんなよろしくね!」マリアはドレスの裾を広げ、頭を下げた。





「シエル、後で大学の寮から私の荷物が届くから」


「分かった」


「じゃ、私出掛ける所があるからまた後でね」



急ぎ足で屋敷を後にしたマリア。

“アンジェリーナ・ダレス”




そう刻印された墓に真っ赤な薔薇を手向け、マリアはこう言った。






「ただいま。マダムレッド。遅れちゃってごめんね…」










そよ風が、優しくマリアを包んだ。