8/赤い記憶と舞踏会

昔の事。




シエルをおんぶし、レイチェルと仲むつまじく微笑み合うヴィンセント。




哀しげに見つめるマダムレッド。







『マダムレッドってお父様の事が好きなの?』


『いきなり何言うのよ。そんな訳ないでしょ』


『冗談。いつも寂しそうな顔してお父様とお母様を見てるから言って見ただけ』


『マリアは好きな人居ないの?』


『居ない』


『マリアは婚約者も断っちゃうし』


『私は結婚する気ないわ。マダムレッドみたいなお医者様になって活躍するのが私の夢だから。第一、愛とか恋とか馬鹿みたい』


『そうかしら?一番好きな人と一緒になれたら幸せだと思うわ。……マリア、アンタもいつか好きな人と幸せに…』


『なーらーなーい。私はお医者様になる。それだけ』






あの時のマダムレッドの切なそうな顔。




いつもどんな気持ちだったんだろう。




胸が痛い。






私がマダムレッドの力になれたらマダムレッドにあんな事させずに済んだんじゃ?






自然とバーネット邸へ足が向く。

バーネット邸の薔薇を慣れない手つきで手入れする真っ赤な人影。


「いったぁ…」


「アンタ…マダムレッドの姪の」


「マリアよ」


「何しに来たのヨ」


「アンタに会いに来たのよグレル。私はマダムレッドの裏の顔が知りたい」








最初マリアはグレルに抵抗があったが、マダムレッドの事が知りたい一心で近付いた。



グレルもグレルでマダムレッドの面影を持つマリアに興味があった。








「マダムレッドのレコードにはアンタの父親と母親の記憶がたくさんあったワヨ」



マダムレッドの記憶をグレルから聞くマリア。





…やっぱりマダムレッドはお父様が好きだったんだ…。





淡い恋心



叶わぬ恋





悲しみ




妬み




嫉妬


「それと…アンタの事もよく話してたワヨ」


「私の事?」


「賢くて器用で気が強くて頑固で正義感があってわんぱくで…」


「…」


「あと楽しい恋をして幸せになって欲しいって毎回毎回言ってたワ」


「恋ねぇ…」







マダムレッドの話をしているうちにマリアとグレルはいつの間にか打ち解けていた。






「愛とか恋とか馬鹿みたいじゃない?」


「アタシは毎日愛に溢れてるワヨ!」


くすくすと笑うマリア。



「グレル、最初はアンタの事凄く嫌いだったけどなんか面白そうな人ね」

「奇遇ネ、アタシもアンタに興味があるワ」






主の居なくなったバーネット邸に入るマリアとグレル。
マダムレッドのクローゼットを開けるグレル。




「アタシもこんな真っ赤なドレス着たい!でもアタシじゃ着らんないのよネ…アンタ、マダムレッドのドレスとか持って行ったら?」






「これはマダムレッドの宝物ヨ。アタシによく見せてくれたのヨ」




手編みの赤ん坊用のケープと手袋と帽子と靴下を箱から出すグレル。





「これ、私が編んだやつだ…」






馬車にマダムレッドのドレスや宝石をたくさん積んでファントムハイブ邸へ帰った。
箱を持ちながらふらふらするマリア。



「大丈夫ですか?マリア様」




セバスチャンは箱を持つ。



「一人で持てるわ」


「レディが荷物運びなどいけませんよ」




そう言われ、気が付くと大量の箱はマリアの部屋に運ばれていた。




「どうもありがとうございました」



嫌味っぽくセバスチャンに言うマリア。





その時ちょうどファントムハイブ邸には仕立て屋のニナか居た。




「あら、ニナ、お久しぶりね」


「マリア様!お久しぶりです!」


「ニナ、ついでにサイズ直しお願いできるかしら?」





ぶかぶかで丈の長いマダムレッドのドレスを持ってくるマリア。







数日後、サイズ直しされたドレスをニナが持って来た。
夜。




カツカツカツ…



階段を下りるヒールの音。









「姉さん!」




驚くシエル。






ニナにサイズ直ししてもらったマダムレッドのドレスを着て帽子を被ったマリア居た。





「舞踏会に行ってくるわ」







そう言って馬車に乗り込むマリア。





慌てて追いかけるシエルとセバスチャン。








『私が舞踏会デビューする時はマダムレッドと一緒に真っ赤なドレスを着てするの!約束よ?』


『もちろんよ。楽しみにしてるわ』




ウインクするマダムレッド。






馬車から夜空を眺めながらそんなやりとりを思い出して居た。
舞踏会の会場に着くとグレルが居た。



「グレル!」


「仕方ないワネ…アタシがエスコートしてアゲル」






グレルのエスコートへ舞踏会の会場へ足を踏み入れた。







煌びやかで華やかな大人の世界。


胸が弾む。






そして会場がざわめく。




「マダムレッド?」


「マダムレッドにしては小さいな」


「マダムレッドにそっくりだからマダムレッドの身内かな?」





ざわめきの真ん中に立つ。



「マダムレッドの姪です。以後お見知りおきを」

ドレスを広げ、挨拶をする。






「おお…なんと美しい!光り輝き始めたルビー!君の舞踏会デビューを祝おう」



金髪の青年がマリアの手の甲にキスをした。


「ありがとう、ドルイット子爵様」






ニッコリ微笑むマリア。





踊るマリアとドルイット子爵。






「アイツ…」


陰からシエルとセバスチャンがマリアを眺めて居た。






「グレルさん」


「セバスちゃん!」


「グレルお前姉さんに近づいて何か企んでるのか?」


「何も企んでないワヨ!ただ…」









マダムレッドに重なるのよネ…





マリアは舞踏会にて“リトルレッド”と呼ばれるようになった。