「いけません、マリア様」
台所にてパンケーキを自らの手で焼くマリア。
「セバスチャン、いちいちうるさいわ。私はこれから自分で食べるものは自分で用意するの」
シエルから聞いて居たが、マリアは頑固である。
「仕方がありませんね」
説得をやめるセバスチャン。
セバスチャンが悪魔で、契約終了後シエルの魂を喰らう事を知ったマリアはセバスチャンをとことん拒絶していた。
最初はバルドに食事の支度を頼んだが、黒こげの謎の物体が出てきてからはマリア自ら食事の支度をする事にした。
マリアは寮に居た頃退屈と言う理由で、寮のシェフやパティシエに料理を習った為、一通り料理ができる。
セバスチャンは一礼して台所を後にする。
「くれぐれもお怪我にはお気をつけて下さい」
「分かってるわよ!」
そしてパンケーキを食べ終え、後片付けをして大学へ行くマリア。
シエルの身の回りの世話もしようとしたがシエルには頑なに断られたが自分の事は自分でする、令嬢らしからぬ日々が始まった。
「今日の夕飯はリゾットにしようかな」
大学の帰り道、ファントムハイヴ邸の前にマリアは怪しい人影を発見する。
真っ赤な髪に真っ赤なコートを着たオカマ。
「うちに何の用?」
「…?マダムレッド?」
「失礼ね、私はレディよ!」
思いっきり真っ赤なオカマの腕を引っ張るマリア。
「アイタタ!離してヨ!」
「シエル!うちのお屋敷の前に変な人が居たから捕まえたわ!」
「違うワヨ、アタシはセバスちゃんに会いに…」
ファントムハイヴ邸の玄関にシエルとセバスチャンがやってきた。
「グレル!」
「グレルさん」
「セバスちゃん、このオンナ何なのヨ?」
「僕の姉だ」
「アンタの姉?マダムレッドにそっくり…本当にマダムレッドから聞いた通りダワ」
「シエル、知り合い?」
マリアがシエルに尋ねる。
「姉さん…そいつは…」
「アタシはグレル・サトクリフ。死神DEATH★」
「しに…がみ?」
「ヒトの魂を狩る死神ヨ。どうぞよろしく」
「…」
無言のマリア。
突然死神と言われても
しかし
目の前には悪魔が存在している。
「姉さん……以前切り裂きジャックの事件があっただろう?」
シエルは重い口を開ける。
「えぇ」
「あれは…マダムレッドとグレルがやったんだ」
「シエル、突然何を言い出すの?」
シエルはマダムレッドが切り裂きジャックになった経緯を話し出した。そしてグレルも口を開ける。
「本当ヨ。アタシはマダムレッドに協力してたんだから。ま、マダムレッドはただのオンナだったから興味なくなっちゃったケドネ」
「それってどういう事?」
「グレルがマダムレッドを…」
「嘘よ!」
マリアは気付くと屋敷を飛び出して、ローズガーデンへ走って居た。
「嘘よ…」
涙が止まらない。真っ赤な薔薇に囲まれて思い出す、紅の記憶。
『マリア、私赤ちゃんが出来たの』
『本当?マダムレッド!嬉しいわ!』
マダムレッドの腹部に耳をつけるマリア。
『マリア叔母さんですよ〜』
『ふふふ…まだ早いわよ』
『マダムレッド!赤ちゃんに靴下とケープと手袋と帽子を編んだの!』
『上手くできてるわね、使うのが楽しみだわ』
笑うマダムレッドとマリア。
幸せは長く続かなかった。
落馬事故。
『マダムレッド!おじ様は?』
首を横に振るマダムレッド。
『赤ちゃんは?』
うわぁぁぁん
赤ん坊のように泣きじゃくるマリア。
『私は大丈夫よ…アンタそれより学校は?大事なテストじゃ…』
『…それどころじゃないわ…』
マリアはマダムレッドを抱きしめた。
マダムレッドも涙を流した。
「アンタ何泣いてんノヨ。現実は現実ヨ…」
「…」
グレルがローズガーデンへやってきてマリアの元へ来た。
マリアはグレルを睨みつけて近付くと小さな拳でグレルの胸を叩く。
「マダムレッドを返して」
弱々しい声で言った。