〇〇をしなければ出られない部屋に閉じ込められた
「どこだここ」
「私が聞きたいです」
夜寝て、起きたら四方八方真っ白な部屋にいた。
確実に自分の部屋にいたはずだ。寝ていたとしても移動されれば起きる自信がある。それが連れてこられるまで気が付かなかった。
この異常に少し混乱しかけたが、隣に相澤先生という第三者がいたことによって平静を保てた。それにしたって状況が分かっていないというのは変わりないが。
相澤先生も起き、改めて状況確認。
「寝ていて、起きたらここにいました」
「俺も同じだ」
「見たところ扉はありませんね…」
「なんかの個性か?」
すると、一枚の紙が床に落ちているのを見つけた。手に取って二つ折りのそれを見ると。
「……………」
「浅間?どうした」
「相澤先生。合理性を追求しそれを実行貫く姿勢は好ましいです」
「おい……?」
「奇襲からの短期決戦も似ているところがあり好きです」
「いきなりどうした!」
先程まで見ていた紙を渡すと、相澤先生はそれに目を通す。そして額に手をやって項垂れた。
「『相手の好きなところを言い合ってください。そしたら出られます』だと……」
「はい。ですからこうやって相澤先生の好ましい点を言っています」
「待て。だがここに書いてあることが本当かは分からないんだぞ」
「ですが扉はない。外に出る手段が分かっていない現在、どんなことでも試してみる価値はあるかと」
ただ言い合うだけですし、問題はないでしょう。と続ける浅間に頭が痛くなった。お前には問題ないだろうが、俺には問題大ありだ。
惚れた相手に自分の好きなところを言われて、自分も言うなんて、なんという拷問。既に今さっきの二点だけでも顔が熱くなる。
「ヴィランを追い詰めるその姿はカッコイイと思います。敵に向ける鋭い視線も好ましいです」
「ぁ〜……もう、いい。もう十分だ」
「?なぜ顔を赤らめているんですか」
「いや、……気にするな」
クソ。なんでこいつそんな真顔で淡々と言ってくるんだ。恥じらう対象じゃねぇってことか。
「では相澤先生、どうぞ」
「は!?」
「『言い合ってください』つまりお互いに言わなければ条件達成とは言えません」
さぁ、さぁ。と促してくる浅間に、もう覚悟を決めた。
「……一度敵と判断した相手に向ける目が、鋭くて好きだ」
「はい」
「自分の限界を知っていてそれ以上は無茶なことをしない堅実な性格が好きだ。だけど面倒になってくると本能のままに行動するところも好きだ」
一度話し出しちまえば、案外スラスラ出てくる。
顔を見て言うのはさすがに恥ずかしいから、顔に手をやって僅かに上を向きながら言った。身長差があるからな、それだけで向こうからは俺が見えねぇし俺もあいつの顔は見えない。
「身軽に飛び回る姿は見惚れるし、個性を使ってねぇのに圧倒する戦闘は綺麗だ。動く度に跳ね回る黒髪が尻尾みてぇで可愛い。他の奴の前だと冷たいくせに、黒木の前だと破顔するギャップが好きだ」
好きなところなんていくらでもある。けれど別に思いが通じあっているわけでもない、ただの生徒と教師の関係でこんなに暴露していて、羞恥で死にそうだった。
「いつもは冷静なくせに、不当な評価やなめられたりすると食ってかかる強気なところが好きだ。無意識のうちに喧嘩を売っちまう危なさが好きだ」
ガチャ
そこまで言ったところで、鍵が開く音がしてそちらを見れば、いつの間にか扉が現れ、少し開いていた。
「………扉、出たな」
「そうですね」
「……………」
「出ますか」
「…………そう、だな」
スタスタと扉に向かっていく浅間に、こんなに恥ずかしく思うのは俺だけかと、残念に思いため息を吐く。
恥ずかしいからと顔を見ないようにしていた俺は知らない。
俺があいつの好きなところを言っている間、無表情だが顔を赤らめていて、俺が見た時には常の状態に戻しただけなんて。さっさと出ていったのは、俺の顔が見れなかったからだなんて。俺は知らなかった。
(くそっ。演技ならどうとでも受け流せるのに、相澤先生は本心から言っているなんて……!こういうのには慣れていないんだよ!)
(意識さえしてくれねぇか………こいつには直球で言った方がいいのか?)